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第一話 楡(にれ)の木屋敷の腰曲がりのポト
ここは、ハウシュ国の北のはずれ、フラッバーという町です。
北の漁場は豊富な魚の取れる豊かな国でした。漁業の盛んな町だったのですが、若者がいつしかこの町から姿を消し始めたのは、今から数年前。跡取りのいなくなった漁師たちは、仕事もせず、朝から飲んだくれているのもいます。そして町は、人との接触を拒むように、窓には一日カーテンが閉められ、人も、買い物をするだけ外に出てはそそくさと家の中に入っていくのでした。
「やーい、やーい」
「楡の木屋敷の腰曲がり―」
「また、木にぶら下がるのか―?」
いつの時代も世界中の子供の声は変わらないみたいですね。
店先で知らんふりをしながら女店主と話をする男の子は主人公のようです。
「こっちは姉さんの分、こっちがポトあんたの分だ、落とすんじゃないよ」「ありがとう」
もらったのはお金、それを大事に、首からぶら下げた袋にしまい、懐へと隠しました。
またお願いね。と優しい笑みの彼女からステッキをもらおうとしたら、横から手が出てそれを取られた。
「返せよ!」
「男がこんな杖、持ってるなんてきもいだろ」
「きもくなんかない、これはじいちゃんの形見だ!」
それに手をかけ引っ張った。俺よりもっと汚い身なりの子供たち。
「返せ!」
「ステッキも杖も変わんねえだろう、へっ!」
俺が頭の方を持ったせいで、相手はそれを取り損ねたが、下っ端なのか小さな子たちがそれに手をかける。
「男が、花の飾りなんてきもい」
「きもい、きもい」
両方からの引っ張り合い、二対一、負けちゃう~!
「これは由緒ある国のバラの花だ、今じゃ世界中探してもない、でもちゃんとした本には載っている、希少なバラなんだ、放せっ!」
やめなさいよ!と女店主がほうきを持ってきてばし、ばしと叩き始め助けてくれた。
「げー、みんな行こうぜ」
「香水なんか作って、男女、くさーい」
くさい、くさい!
あっかんべー。
きもいー。
ベーだ。
「ふん、お前らなんかにわかるか!」
子供たちは走り去った。
ありがとう、助かりました。
ズキン!
腰に痛みが走った。
まったくあいつらと来たら。
空を見上げた、少し風が出て来たようだ。腰はジグジグと痛み出した、それを擦った。
「腰が痛いから雨が降るよ」
「まあ大変、ありがとう、気を付けて帰るのよ」
女性に頭を下げ、空になったカバンをかけ直し、僕はステッキを付きながら、ひょこひょこと曲がった腰をかばうように歩きはじめた。
僕は、ポデット、みんなからはポトって呼ばれている。僕は生まれつき、体が悪くて、腰が曲がっているから、杖なしじゃ歩けなかった。じいちゃんが死ぬ間際、僕はこのステッキをもらったんだ。じいちゃんが大事にしていたから、僕も大事に使っている。
お医者様は、痛くても頑張って、体をまっすぐにするようにって、外にある、木にぶら下がるようにいわれている。大きな楡の木は珍しいほど、横に太い枝を伸ばして頑丈。よくぶら下がっていると、楡の木屋敷の腰曲がりのポトぶら下がってもチビは治んねえぞ、なんて囃し立てていく子供たち、大人達にもそんな呼ばれ方もしてるし行きかう人は笑っていく、うちの木は、この辺の目印だから、目立ってしょうがない。旅人は、ここまでくるとホッとして楡の木の下に腰を下ろしていく。
大きくなるうちに、体がまっすぐになるって、本当かな?死んだ爺ちゃんは、泣こうがわめこうが、その木につかまるように俺を抱いては、楡の木につかまらせた。その下にある爺ちゃんお気に入りの椅子に腰かけ僕が“落ちる!”って言うまで本を読んでいた。
今じゃその椅子に上がって手を伸ばすこともできるようになった、でも大きくなる前に死んじゃうかもしれないのに変なの。でもぶら下がった後は不思議と痛みは少しだけど無くなるんだ。
「ただいま」
パタパタとコートを叩くと水しぶきが舞った。
霧雨のような雨が降り始め、少しだけコートをぬらした。
お帰り、またいじめ?俺の方をちらりと見ながら通り過ぎた銀色の長い髪の女性。
「ステッキ馬鹿にされたー」
ほっときなさい、そんな価値もわからい奴らなんか。
パタパタと動き回っている、この人は姉のマーサ、姉さんの邪魔にならないように暖炉のそばに行き、手をかざした。あったかい。
「雨が降りそうね」
「降ってるよー今日はぶら下がらない」
「なんで?」
「みんな、ばかにするから」
「あなたのためなのよ」
「わかってる、でも今日はいい」
濡れるし寒いしいいよ。とぶつぶつ言いながらコートを着たままそこから動いた。
「どこに行くの?」
「爺ちゃんの部屋、本読んでくる」
「食事ができたら呼びに行くわね」
僕たちには親がいない。死んだと聞いているけど・・・
僕たちは爺ちゃんに育てられた。生まれたところは知らない、姉さんも覚えてないんだって。死んだ両親が預けた人は母さんのお父さん。髪の色から西の方の生まれみたいだけど、爺ちゃんは教えてくれなかった。
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