第一話 楡(にれ)の木屋敷の腰曲がりのポト

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 爺ちゃんは本ばっかり読んでいる人だった。でもいろんなことを教わった、やさしい人だった。貧しかったけど、楽しかった思い出はいっぱいある。 爺ちゃんが死ぬ前にこんな事を言ったんだ。 「この世界には、目に見えない世界がいっぱいある、だからポト、お前は自分の足でその世界を見ろ。いいか、よく聞け。ある国に、このバラが存在する。お前たちはその国の王家のものだ。わけあってこの国に私はやってきた。だが、この国もまた、同じ目に会おうとしている、この膨大な本の中に、お前たちが本来帰るべき国のことが記されたものがある。だが、今はそれを明かすことはできない。お前たちが、それを探し当てたときは、その国が、王を求めてきた時だ、よいか、マーサ、お前は姉として、弟を守ってくれ。ポト、いや、ポデット、お前は王として、その国いや世界を守る頂点にいるのだ、世界で、しっかり学び、その知恵を、生かしてくれ」  そう言い残して、爺ちゃんは死んでいった、俺たちはまだその本を見つけていないし、ステッキの飾りの中に咲いているバラの名前さえも知らない。  僕は、九月に十二になったばかりだ、姉ちゃんは年が明けて春、三月には十七、もう、お嫁に行ってもいい歳だ、彼氏はいるのにな。朝から晩まで病院で働いている姉には、俺がこんな体で悪いと思っているが、それでも小さいときの事を考えれば、今、体はだいぶまっすぐになったと言ってもいい、ただなんとなく、癖でステッキが手放せないでいるだけだと強がっている。 寒い今の時期は背中が痛くてついつい丸まってしまうけど、姉ちゃんの前ではそれをしないようにしてる。 この国のほとんどの人が黒い髪の毛だ、だからよくいじめられる。 姉さんの髪の毛はじいちゃんとそっくりなきれいな銀色なのに、僕は銀と茶色のまだらなんだ、だから杖をついて歩くと、おじいちゃんが歩いてるみたいに見えてずっと馬鹿にされてた。 でも、茶色い髪は父さんに似てるんだって、色男になるなって爺ちゃんは言ってくれた。この頃は、銀よりも茶色い方が多くなってきて少し気に行ってるんだ。 吐く息が白い、少しだけドアを開けあったかい空気を入れる、ろうそくに灯をともした。外は雨が音を立てて降りだし、肌寒くなってきた、今晩は雪になるだろう。  明り取りの窓が曇ってきた、カーテンを引っ張り。ろうそくの明かりで、本を読み始めた。  じいちゃんの本はいっぱいある、でもほとんどが植物の本、バラに関するものが多い、肥料や、土、虫や、病気の事が書かれている、これもなんども読んで飽きてきた。  背表紙が銀色のきれいな本がある、じいちゃんの髪の毛の色だと昔はよく言っていた。でももうボロボロだ。中身はどこかの国の物語、爺ちゃんが生きていた時はひざの上でよく読んでもらったけど、今はもう読んでいない。 爺ちゃんはこの本たちは命そのものだから本の通りにしなさいとよく言っていた。ボロボロでも一番大事な本だけどなんかなー。 爺ちゃんが死んでからずっと庭のバラを守ってきた。うちの周りの生垣にはつるバラが絡まってる、そして小さな庭は爺ちゃんが育てたバラがいっぱい咲いている、春から夏にかけてはいいにおいが漂ってくる。バラの本を一冊、銀の本の上に乗せた。  姉ちゃんは、いろんな本を読んでいるからか、病院でも重宝されているんだ、この間なんか、薬を作ったんだ、すごいだろ。 「これが魔法のステッキなら、こうして、ポンとたたけば、そこから新しい本が現れたりするんだろうな」  胸の袋、このお金は食べる分に消えていく、貧乏で、食べるのがやっと、新しい本がほしくても買えないし。でも爺ちゃんの本があるし、姉ちゃんの彼氏が貸してくれる本は面白いものが多いんだ、知らない国の話は僕を遠くへ連れて行ってくれる。でも本が導いてくれるなら、このボロボロの本でもいいのかもな。 静かに銀の本を床に置いた、飽きちゃったな。 本当の王家なのかな、だったら僕は王様だ! 椅子に腰かけたまま、俺は何気なく、床の上の本の周りを、くるくるとステッキで回した。 銀があるなら金があってもいいよな。 「王の御所望であるぞ。金の本よ出ろ!」 そういって思い切りステッキで床を叩いたんだ。
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