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「あの、僕、王子じゃ」
「いえ、いえ、貴方様は正当なローズ家の跡取り、このステッキと、このバラは次の王のあかしであります」
バラ?エッグの入っていたバラが咲いている。アッ、ステッキ、同じだー!
でもな、王のあかしって姉ちゃんがいるのにな、ってここ何処なんだろう。
ぼそぼそ独り言。
「王女様もおいでですか?なんと、私はこの時をずっと待っておりました」
香の強くなったお茶をすすって、ハーッとため息。
濃いとおいしいな。
僕の前に座った男性はポロポロと涙を流しはじめた。
ハンカチ、ハンカチ、これでいいか。
エッグを拭いたタオルを腰から差し出した。
こんなことまでしていただいてと、おい、おいと泣く彼。
もう、何が何だか・・・
「あのー、僕ら、帰らないと」
「帰る?どこへですか?」
じいちゃんの家に帰らないと。
「おじい様ですと!」
僕は持っていたカップを思わず落としそうになったくらいビックリした。彼は残ったお茶を一気に飲み干すと、僕がカップを置くのを待っているのかそっと手を伸ばした瞬間、腕を取られ、カチャンとカップから手が離れ、まるでピューっと風に乗るように僕は彼に連れて行かれた。
さっきの廊下?
でも、こんなのなかったよな・・・?一階のようだし。
「ココには、先祖代々の王の肖像画が飾ってございます」
こんな絵さっきはなかったよな?
「行きましょう、最後の王の前へ」
最後?
その男の後に絵はなかった、でもこの人は誰?
赤い髪の毛に混ざるような黒い髪の毛、というか赤黒い髪の毛だな。
一枚前、幼いというか、僕よりも少し上に見えた銀色の髪の毛の青年。
「この人?」
「このお方は、こちら、エド王の兄上、フェンディ―王子様にございます」
「フェンディ―?」
「はいフェンディ―王子です」
フェンディ―、爺ちゃんと同じ名前だ!
「やっぱりこの人・・・爺ちゃんに似てる」
「は?」
いや、いや、それはないという男性。
王子は二十歳の誕生日に死んだという。
「ハア?ウソだー、だって爺ちゃん、88で死んだのに、今から三年前だぜ」
「また、また」
「ウソじゃない!」
「そんなことないですって」
「それじゃあ、この人がもし、今生きていたらいくつなんだ言ってみろ!」
男は指を数えながら、はっとしたような顔で俺を見た。
「いくつだ!」
「えーっと・・・」
「何を騒いでいる!」
「侍従長様」
そう呼ばれた男は、三十代ぐらいの若い背の高いがっしりした男、今まで俺と話していた人よりずっと若く見えるけど・・・
「この子汚い小僧は何処の物だ!」
いやそうな顔で睨まれた、ふん!
「あ、いや、少々お待ちを」
「あのーステッキ」
今お持ちします。と走って行ってしまった。
「お前、どこから入ってきた」
その男は僕をまた、睨んだ。
「きたくて来たのではない!」
爺ちゃんの部屋でバラの香水をつくっていたらここへ来た。
「嘘をつくな、そんな身なりのガキが、香水?ばかげてる」
「お待たせいたしました、王子、これを」
「ありがとう」
「王子だと?また夢でも見ていたのか!」
汚いコートの下にはステッキが見える、そして汚い木のカップの中にあるバラの花を差し出した。
「まったく、エッグ、帰るぞ、寝てるのか、仕方がないな」
コートを受け取り、ステッキを受け取り、バラのカップを受け取った。
俺の方をじろじろと見ている。
「なんだよ」
「いかがですか?」
「まさか?」
「本物ですぞ」
ニヤニヤ笑う最初の男。
男は俺の腕を取ってバラの中をのぞいた。
「離せ、フン!」
男は驚いた顔をして俺を見た。しるか、はなっせ!と腕を振り上げた。
俺はまた絵を見上げた。手にしたステッキは僕と同じような気がした。
「じいちゃん」
手を伸ばした。
「触るな!」
その声に驚いて手をひっこめた。
「こんな作り物いくらでも」
ステッキに手をかけようとした。
「触るな!これは代々うちに伝わる家宝だ、何人たりとも触らせぬ!」
侍従長、彼は間違いないのでは・・・
うぬー、腕を組んで考えているが、俺には関係ない。今は帰ることを考えなきゃ。
本から出てきたエッグ、関係あるんだろうな。
向こうは二人でこそこそ話してるし、俺には関係ないや。
えっとー、カップを本だと思えばいいから、彼女を床に置いて、ステッキでカップの周りをグル、グル。お願い、あの家に帰して。お願い!
「爺ちゃん、帰ろう」
爺ちゃんの絵の前で願った。
風が出てきた、俺の髪の毛や、コートが揺れた。
「あの家に帰して!」
ドン!
とステッキを突いた。
ブワーッと風が舞い上がった、俺はカップに手を伸ばした、すると、手がぬっと伸びて、カップに指がかかった。
「侍従長―!」
と男の叫び声が耳に残った。
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