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――「あそこで、君は見てしまったんでしょう?」
「み、見たって……」
あの、化け物のことなのか。
すると、またしても優介の心を読んだかのように珠美は頷き、歩きながら言葉を発する。
「君がもし、今日の自分に何が起こったか知りたかったら。その覚悟があるのなら。明日、私の家に来なよ」
無理強いはしないけど。
「覚悟って、なんの……」
「……受け入れる覚悟」
静かにそう続ける珠美に、優介はすぐさま返事をすることができなかった。
珠美が言っているのは十中八九、優介の今日の恐ろしい体験のことだろう。
何が起こったか知りたかったら?
受け入れる覚悟?
彼女は一体何を知っている?
沈黙が続くまましばらく歩くと、珠美は一軒の家の前で足を止めた。
表札は、相楽。
ということは、ここが……。
「ここが、私の家だから」
振り向きもせずに珠美は優介に告げた。
「……ここに明日来ればいいってこと?」
硬い表情のまま、優介は訊く。
「来るか来ないか、決めるのは君だよ。今日のこと、忘れてしまいたいんなら来ない方がいい。世の中には知らない方がいいこともある。これもきっとそのうちの一つだから」
「……何だよ、それ……」
戸惑う優介に、ただ、と珠美は続ける。
「君が明日来るか来ないかは別として、一つ忠告しておくよ」
珠美は一旦言葉をきり、数秒おいてから次の言葉を発した。
「今の君だと、また今日みたいなことが起きるかもしれない」
気をつけた方がいいよ。
そう言い残して、珠美は家の中へと姿を消した。
その背中を、止めることもできずに優介はただ見つめていた――。
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