第二章 異変

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目が、合った。 最初に感じたのは、違和感。 まだ春になったばかり。なのにその女はまだ季節ではない薄いワンピースにヒールの高いサンダル姿。 おかしい。 女の顔は血で真っ赤に染まり、ワンピースから覗く手足も痛々しいほどの傷があるのが遠目にも分かった。 (普通の人間じゃない!) あんな状態で外を出歩けるわけがない。 死者だ。 だって、女は、優介と目が合った瞬間。 笑ったのだ。ニタリと。 とてつもない悪意を感じさせるその顔を優介に向けてきた。 やばい。 考えるよりも早く、優介は走り出していた。 だが、無情にも足音は優介を追ってくる。 やばい。追いつかれたらどうなるかなんて見当もつかないが、やばい気がする。 絶対に振り向かない。走るしかない。 近いはずの珠美の家がとてつもなく遠く感じる。 「ハアッ、ハアッ、ハッ……」 苦しい。 足音のリズムは変わらない。しかし少しずつ優介との距離を縮めて近づいてくるのが分かった。 じわじわと迫り来る恐怖。それが優介の呼吸をさらに荒くさせた。
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