718人が本棚に入れています
本棚に追加
目が、合った。
最初に感じたのは、違和感。
まだ春になったばかり。なのにその女はまだ季節ではない薄いワンピースにヒールの高いサンダル姿。
おかしい。
女の顔は血で真っ赤に染まり、ワンピースから覗く手足も痛々しいほどの傷があるのが遠目にも分かった。
(普通の人間じゃない!)
あんな状態で外を出歩けるわけがない。
死者だ。
だって、女は、優介と目が合った瞬間。
笑ったのだ。ニタリと。
とてつもない悪意を感じさせるその顔を優介に向けてきた。
やばい。
考えるよりも早く、優介は走り出していた。
だが、無情にも足音は優介を追ってくる。
やばい。追いつかれたらどうなるかなんて見当もつかないが、やばい気がする。
絶対に振り向かない。走るしかない。
近いはずの珠美の家がとてつもなく遠く感じる。
「ハアッ、ハアッ、ハッ……」
苦しい。
足音のリズムは変わらない。しかし少しずつ優介との距離を縮めて近づいてくるのが分かった。
じわじわと迫り来る恐怖。それが優介の呼吸をさらに荒くさせた。
最初のコメントを投稿しよう!