第十三章 首なし地蔵

41/42
716人が本棚に入れています
本棚に追加
/702ページ
「人に仇なす存在となったあなたを元いたところに戻すわけにはいかない……悪いけど、祓わせてもらうよ」 (たま……ちゃん?) どこか遠くで何故か掠れた珠美の声が聞こえた。 何と言っているのか聞き取れないが、お経のようなものが優介の耳に心地よく響く。 だが、それと同時にすすり泣く女性の声も聞こえた。 珠美の唱えるそれに怯えているような……そんな声色。 段々とその声は小さくなり、やがてそれは聞こえなくなった。 まるで、この世から消え去ってしまったかのように。 「……けくん」 「……うすけくん」 「優介くん!」 「!」 体を揺り動かされる感覚にびくりと痙攣しながら優介は目を開いた。 ぼんやりとした視界に見えたのは、セーラー服に身を包んだ珠美の姿。 いつもの余裕を感じられないような顔つきで珠美は優介の顔を覗く。 「大丈夫?」 何故気を失っていたのかよく分からないながらも大丈夫、と答えようとして優介は目を瞠った。 珠美の出で立ちを見て。 ところどころほつれてボロボロになったスカート。 スカートだけじゃない。 よくよく見れば血こそ出ていないが珠美の体にはあちこち擦り傷があった。 ドクン。 ドクン。 いつもより、やけに自分の鼓動が近くに感じられた。 「たまちゃん……それ、は………」 確かに自分の口から発した言葉なのにどこか遠くに感じる。 優介が、震える指で指した先には。 人の手の形にくっきりと残った赤と紫の痣。 珠美の首にはっきりと残っている、痣。 相当強い力でなければこうはならないはずだ。 ドクン。 ドクン。 一瞬のうちに記憶が蘇った。 あの痣をつけたのは……優介自身? 珠美の細い首を絞め上げたのは自分。 苦しげな声を上げる彼女の、首を。 優介を助けようとして奔走した珠美を。 「ぅ、そだ……」 全身を震わせながら両の手を見て更なる衝撃を受けた。 優介の腕についた、自分のものより一回り小さな手の形をした痣。 それは、抵抗のしるし。 事故で負った傷より遥かに重く痛んだ。 小声で嘘だ、嘘だと呟いても、手に残る感触は消えなかった。 「優介くん!しっかりして」 「たまちゃ……おれ………おれがたまちゃんを……!」 「優介くん!」 肩を強い力で揺すられ、優介は珠美を見た。 何度見ても彼女の首筋に残った手の形をした痣は消えない。 声を震わせ、優介は何度も同じ言葉を繰り返した。 珠美がどれだけとめようとも。
/702ページ

最初のコメントを投稿しよう!