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「心の声、ね……」
立ち尽くしたまま珠美は自分の頬をぽりぽりと掻いた。
自分の心には素直なつもりでいる。
いつだって。
面倒なことが嫌いな性格だからそういうことは極力避けてきた。
愛想笑いは得意だ。
上辺だけの人付き合いも。
まあ、最近は彼のせいでそうでもなかったかもしれないが。
彼が自分のことを拒むというのなら珠美はそれを受け入れるだけだ。
だって、彼がそう望んでいるのだから。
「……」
何だか……もう授業を受ける気分ではなくなってしまった。
朝のHRのチャイムはもう鳴っている。
さっきまで昇降口でごった返していた生徒たちは割り振られた教室へと吸い込まれてここにいるのは珠美一人。
(帰るかな……)
今日はサボろう。
どうせ教室に行ったって授業中は寝るだけなのだから。
学校の机は堅いし冷たいし……同じ寝るなら自分の部屋の方がいい。
履いたばかりの上靴を自分の下駄箱へ投げ入れ黒のローファーに履き替えた珠美はさっさと昇降口を出ていった。
花にあとから小言を言われないようにメールだけはしておいた。
恐らくそれでも文句は言われるだろうが仕方ない。
携帯をポケットにしまうと珠美は家路を急いだ。
「ただいま」
「おっかえんなさ~い。何?今日はあんたサボり?」
リビングのドアを開ければ叔母である希がソファにでろんと横たわりテレビを見ていた。
まるでニートだなと思いながら珠美は返事を返す。
「まぁね……何か面倒になっちゃって」
「女子高生なんだからもっと学生の時間をエンジョイしなさいよー」
あたしが代わりに行ってあげよーか?
後ろからにやけた声が投げかけられたがそれを完全に無視して珠美は自分の部屋へ向かう。
制服から部屋着に着替え、再びリビングへ向かうとさっきとは打って変わって真剣な顔をしてノートパソコンを見つめる希の姿があった。
よくもまあ、こんなにころころと表情を変えられるものだ。
「何か仕事の依頼でも入ったの?」
温かい紅茶を準備しながら聞けば違うと返事が返ってきた。
「依頼ではないけど……情報収集するのも仕事の内だからね」
「ふーん……」
つまり、掲示板などを使って近況をチェックしている最中らしい。
インターネット上には情報がひしめき合っている。
都市伝説や怪談。
膨大な情報量が。
もちろん中には嘘の情報もある。
というか、そちらの割合の方が圧倒的に多い。
嘘か真か。
見極めることなんてできないだろう。
普通なら。
だが希にはできる。
嘘の情報を選り分け、真実を見る力が希にはある。
だから希は珠美たちのような怪異を祓う人間の中で情報屋のような役割をしているのだ。
「そういえば最近優介くんのこと聞かないわね」
ふと思いついたように希が顔を上げた。
何かあったの?
大して興味のなさそうな顔をした希だったが、珠美はピタリと動きを止めた。
学校でも花にその話をされ……家に帰ってきてもこれか、と。
何故みんなそんなに彼のことを聞くのだろう。
……どの道、希は話の顛末をほとんど知っているのだから隠してもむだだ。
「最近、避けられてるみたい」
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