第二章 異変

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「ハァッ、ハァッ」 もう少し。あの曲がり角を曲がれば珠美の家だ。 自分を奮い立たせて必死に走る。 そうしてその勢いのまま角を曲がった優介は、向こう側から来ていた人にぶつかった。 「わたっ!」 足に力を込めて踏ん張り、なんとかお互いに転ばずにすんだ。 「す、すいませんっ、大丈夫です……」 か。 相手の顔も見ず、とにかく謝罪していた優介の言葉は最後まで音にならず途中で消えた。 頭を下げて謝る視界に時期はずれのサンダルと皮がずる剥け、真っ赤な肉が覗く脚が、映ったからだ。 「な、ん……」 なんで。 見るな。そう心が訴えるのと裏腹に、優介の体は勝手に視線を上に向ける。 ああ、やっぱり。さっきの女。 先程、血まみれだと思ったその顔の赤は、血ではなく肉。 目だけがぎょろぎょろとしていてあまりの悲惨さに吐き気が襲ってくる。 不気味な笑顔とともにその顔を向けられる。 “からだぁ………、ちょうだい” 確かにそう言いながら。 「あ、あ……っひ」 叫ぶこともできずに優介はその場に立ち尽くした。 女が手を伸ばしてくるのが、やけにゆっくり感じられる。 ここで、殺されるのか。 幽霊なんか視えるから、こんなことに。 こんな力いらない。 自分はただ……。 (おれはただ、人並みに生きていきたいだけなのに) 幼い頃から幾度となく思ったことを再び考える。 なぜ、どうして自分が、と。 ああ、もう手が本当に目の前まで来ている。 もう、だめだ。 ゆっくりと目を閉じた。 そのとき。 がちゃ。と音が聞こえた。ペタペタと低いサンダルで歩くような音が近づいてくる。 そして。 「………優介くん?」
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