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真っ赤な女の顔の向こうに見える姿。
現れたのは、珠美だった。
ポストを開けたときに気がついたのだろう。片手をポストに突っ込んだまま、珠美は動きを止めていた。
「いらっしゃい。来ると思ってたよ」
上がりなよ。
そう言って珠美は門を開けて招き入れようとするが、優介は動けなかった。
だって、まだいる。
優介の首に手をかけようとしている女。
珠美の声に反応したのか、動きを止めてはいるがニタニタと笑う顔はそのままだ。
「……どうしたの?上がらないの?」
重ねて声をかけてくる珠美。ピクリとも動かない優介を不審に思っているのだろう。
優介の目の前にいる女が目に入っていないのか。
不思議そうな顔をして門から優介のいる道路へと出てくる珠美の手には、たった今ポストから取ってきたのだろう、新聞紙が握られていた。
ぺたぺた。
その足音が耳に入ったのか、女は突然首を後ろに向けた。
ぐりんっと音がしそうなほどの勢いだった。
ありえない。普通の人間なら絶対にできない。
だって女の腕は優介に、顔は珠美に向けられている。
これは、珠美も危ない。
「ぁ、がらさ、……」
誰かに助けを求めたいのに、声が出ない。
危ないから逃げろと言いたいのに、声が出ない。
しかし、珠美が優介の前に立つ女のすぐ側まで来たとき、状況は一変した。
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