第二章 異変

16/24
前へ
/702ページ
次へ
「あんたが誰を取り殺そうが私には関係ないんだけどさ、うちの前でやるのはやめてよね」 珠美のその一言に。 表情こそ分からないが、女の腕がうろたえるように震えた。 珠美はさらに続ける。 「その人の体を奪っても、あんたは生き返らない」 しかしその女は再び優介に顔を向ける。女の首がミシミシと嫌な音を立てている。 360度首をまわしたせいだ。首の皮がよじれている。 女の顔にもうあの君の悪い笑みはない。ただ切羽詰ったような表情。 そして止まっていた手をまた優介の首に向けて伸ばしてくる。 「………っ」 もう、気を失いそうだ。いっそ気絶したほうが楽かもしれない。 そうすれば次に起きたときには日常に戻れるかもしれないのに……。 だが、気が遠くなりそうな気配はない。 (こういうときに限って気絶ってできないんだな………) ぼんやりとそんなことを考えていると。 突然景色が変わった。 優介と女を分断するように、何かが目の前を遮っていたからだ。 これは………。 新聞? まさか………。 「やめてって、言ったよね?」 新聞を持ったまま静かに声を発する珠美。 「忠告は一度しかしない主義なの」 とっとと消えろ。 珠美が新聞を持っていた手を下ろす。 女は、優介が瞬きをした一瞬の間に消えていた。
/702ページ

最初のコメントを投稿しよう!

717人が本棚に入れています
本棚に追加