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「あんたが誰を取り殺そうが私には関係ないんだけどさ、うちの前でやるのはやめてよね」
珠美のその一言に。
表情こそ分からないが、女の腕がうろたえるように震えた。
珠美はさらに続ける。
「その人の体を奪っても、あんたは生き返らない」
しかしその女は再び優介に顔を向ける。女の首がミシミシと嫌な音を立てている。
360度首をまわしたせいだ。首の皮がよじれている。
女の顔にもうあの君の悪い笑みはない。ただ切羽詰ったような表情。
そして止まっていた手をまた優介の首に向けて伸ばしてくる。
「………っ」
もう、気を失いそうだ。いっそ気絶したほうが楽かもしれない。
そうすれば次に起きたときには日常に戻れるかもしれないのに……。
だが、気が遠くなりそうな気配はない。
(こういうときに限って気絶ってできないんだな………)
ぼんやりとそんなことを考えていると。
突然景色が変わった。
優介と女を分断するように、何かが目の前を遮っていたからだ。
これは………。
新聞?
まさか………。
「やめてって、言ったよね?」
新聞を持ったまま静かに声を発する珠美。
「忠告は一度しかしない主義なの」
とっとと消えろ。
珠美が新聞を持っていた手を下ろす。
女は、優介が瞬きをした一瞬の間に消えていた。
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