第十五章 心 後編

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  (頭が、痛い……) 自室のベッドに腰かけ、珠美はこめかみの辺りを強く押した。 ずきずきとした痛みが目から額に抜けるようだ。 これは……あれだ。 泣いたあとに頭が痛くなるというやつだ。 花が昔そんなことを言っていたことをふと思い出した。 他人事だからあまり気にしていなかったが……。 その辛さを珠美は少しも分かっていなかったらしい。 こんなに痛むとは思っていなかった。 初めての痛みに珠美は戸惑っていた。 涙を流したのは……一体何年振りだろう。 そう思ってしまうほど珠美は長い間涙というものを流していなかった。 涙なんてとっくの昔に枯れ果てたものだと思っていたのに。 何故涙が溢れたのか……自分でも、よく分からなかった。 (私は、どうして) 父が倒れて悲しかったのか。 父が死ぬかもしれないと怖かったのか。 父が助かって嬉しかったのか。 それとも全く別の感情からなのか。 言葉にできない感情が珠美の心を埋め尽くしていた。 分からない。 自分のことのはずなのに、よく分からない。 例えるなら……そう。 全く違う絵の具をパレットの上で乱暴に混ぜたような……。 そんな気持ちだった。 心の中はめちゃくちゃで。 感情の起伏に乏しい自分の中で唯一の線引きである面倒かどうかということすら、今は曖昧だった。 それでも。 「……」 たった一つだけ、確かな覚悟が今の珠美の中にはあった。
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