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目を閉じ、深く深呼吸をした珠美はベッドから立ち上がった。
向かう先はリビング。
リビングでは希がソファに埋もれるように座っていた。
その目は少しまどろんでいて今にも眠ってしまいそうだ。
しかし気配を感じたのか 彼女はハッとしたように顔を上げた。
「寝てた?」
「……寝てはいないわよ。少しぼーっとしてただけ」
「そう……ねえ、希ちゃん」
「ふぁ……に~?」
希は欠伸まじりの間の抜けた返事をして。
「私に、力を貸して」
次の珠美の言葉を聞いた瞬間。
希は動きをとめ、信じられないものを見るような目で珠美を見つめた。
なんとなくこうなるだろうなと思っていたけれど、予想通りだったことが何だかおかしくて珠美は泣いて腫れあがった目を細めた。
「どうしたの。あんたがあたしの力を借りたいなんて……一体あたしに何をしてほしいの」
希の堅い声音。
請け負った仕事をこなす上で希の力を借りることは珍しくはなかった。
でも、今は違う。
今は……他の誰でもない、自分自身のために彼女の力が必要だった。
運命に抗うために。
「鬼っ子の運命を覆すための知恵を貸して」
「……それ、って」
「私、まだ死にたくない……死ねない」
全力でぶつかってきてくれる人たちのためにも。
覚悟を、決めた。
「だから。ねえ、希ちゃん……私に力を貸してくれないかな」
首を傾けながら問うと。
希は少しの間珠美を見つめ、そして。
「そんなの、いくらでも……っ」
「……いいの?」
「貸すに決まってんでしょ……!」
希の瞳から涙が盛り上がり、溢れだした。
「聞かなくてもそれくらい分かりなさいよ……っ、そんなのっ当たり前のことじゃない……!」
「うん……ありがとう」
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