第十六章 魂触

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嫌だなんて言うわけがなかった。 確かにあの日、優介は恐ろしい目にあった。 苦痛を味わった。 もうあんな目にあいたくない。 そう思ったのは事実だ。 だが、それ以上に。 珠美が助けを求めてくれたのが嬉しかった。 彼女がそんなことを言ったのは初めてだったから。 たくさん、助けられてきた。 命を救ってもらった。 自分の力と向き合う勇気をもらった。 その彼女を、今度は自分が助ける手伝いができる。 そう思えば……恐怖さえ克服できる気がした。 「いくらでも、貸すよ。おれに何ができるのかは分からないけど……たまちゃんの力になりたいんだ」 そう返すと珠美は目を細めて頷いた。 「……………」 珠美の家からの帰り道。 薄暗くなった道を優介は一人で歩いていた。 もう十一月も半ば。 陽が落ちるのは随分早くなった。 あと数分もすれば頼りになるのは街灯の明かりだけになる。 風も冷たい。 薄着で外出してしまったことを優介は少しだけ後悔した。 まさかこんなに長引くとは思っていなかった。 珠美の話はそれほど長かったのだ。 集中していたからこんなに時間が経っていることに気がつかなかった。 はあ、と小さなため息をつく。 彼女に手を貸す、とは言ったものの――実際自分に何ができるのか優介には見当がつかなかった。 珠美の背負っているものは優介が思っていたものよりずっと深くて昏いものだった。 興味本位で行われた珠美を媒体とした降霊術。 珠美を見捨てた上級生たち。 母と、生まれてくるはずだった兄弟の死。 そのどれもが、珠美の細い肩一つで支え切れるものではない。 それを話してくれたことが優介は嬉しかった。 大丈夫だ。 きっと、何とかなる。 仙崎家に行って鬼っ子のことをもっと知れば、きっと珠美は助かる。 絶対に。 このとき優介はそう信じて疑わなかった。 愚かなほどに。 信じられたのだ。 だが。 待ち受ける運命は、闇より深い。 それを、優介が知る由もなかった。
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