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その笑顔を何とかして崩してやりたいと思った。
幸い、今の希には彼から笑顔を奪うだけのネタを持っている。
「そういえば先輩、今回俺に手伝ってもらいたい依頼って何なんですか」
しかも彼はわざわざ自分からそのネタを振ってきた。
こんなに都合のいいことはない。
顔がにやけそうになったが、それを希は完璧なポーカーフェイスでカバーした。
「いつも仕事の手伝いは姪っ子にさせてるじゃないですか。先輩も知っての通り、俺大したことできないっすよ?」
あの子に手伝ってもらった方がいいと思いますけど。
さらに問いかける彼は大して興味もないといった感じで窓際に片手をかける。
「あの子にも相性の悪い相手はいるわ。特に、今回はね」
「……え、ちょ、何かその言い方怖いんすけど」
「そうかしら?」
表情を曇らせた彼に希は内心ほくそ笑んだ。
「ま、気は抜かない方がいいと思うわよ」
「………」
「今回の相手は、神だから」
「………………………………へ?」
たっぷりと数十秒の間を開けて彼――椎名一平(しいないっぺい)は気の抜けた声を上げた。
「ちょっと。気を抜くなって言った側から何よ、その声は」
「いやいやいや!ちょ!待ってくださいよ!」
「何を待つって言うの?せっかくここまで来たのよ」
「だって先輩!それは卑怯っすよ!?神様相手だって知ってたら俺、絶対来ませんでしたし!」
「そうでしょうね。あんたは卑怯ですぐ逃げるものね、だから教えてあげなかったのよ」
一平はさっきまでの沈黙が嘘だったかのように今度は声を荒げ始めた。
希に詰め寄るようにして彼は抗議する。
決して広くはない車内が途端に騒がしくなった。
「神様がどんだけ厄介なのか知ってんすか!?こんなところで人生おじゃんにしたくない!」
「あら奇遇ね。あたしもここで人生めちゃくちゃにする気はないわよ」
「先輩~っ!」
「だから、一緒に頑張りましょうね?」
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