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「電話?」
「あ、うん」
(誰だよ、こんなときに)
ここで出ていいよ、と言う珠美に一言礼を言ってから開いた携帯には、友哉の名前が表示されていた。
そういえば、昨日の電話もメールも返していなかった。
何に対してなのかも分からないモヤモヤとした気持ちをくすぶらせたまま、優介は電話に出た。
「もしもし」
途端に聞こえてくる友哉の騒がしい声。
「あ、優介!?電話出たってことは昨日ちゃんと携帯見つかったんだな!やっぱ旧校舎にあったのか?」
「ああ、旧校舎にあった」
「そっか……。大丈夫だったか?」
「……別に平気だよ」
一瞬、昨日のことを言うかどうか迷った。
友哉は家族以外で一番信頼している人間だ。
だが、言ってなんになる。
無駄な心配をかけたくない。だから、言わない。
「本当に大丈夫かよ。全然声に元気ねえぞ。昨日の電話にも出なかったし……なんかあったんじゃないのか?」
「何もないって」
友哉は変なところで鋭い。何もないと言っているのになかなか引き下がってくれないことに優介は段々イライラしてきていた。
(なんで、分かんないんだよ)
「でも……」
「余計なお世話だってのが分かんないのかよ!」
気がつけば、大声を出していた。
電話の向こうの友哉が黙る。
驚いた顔が簡単に想像できた。
友哉の前でこんな大声は出したことがない。
しまったと思っても、発した言葉は戻せない。静かな空間に珠美がず、と茶をすする音だけがやけに大きく響いた。
「………わり」
沈黙がしばらく続いた後、友哉が小さく言った。
「確かにちょっとしつこかったかもな。お前の気持ち考えてなくて、悪かった」
「ちがっ」
「お互い落ち着いた方がいいかもな。……とりあえず、切るぞ」
「友哉っ」
待てと言う前に。
電話は切れ、電波は優介の声を運んでくれなくなった。
携帯を耳から離し、通話終了の文字を見たまま優介は呆然とした。
酷いことを言ってしまった。ただ心配してくれただけの友達に余計な世話だなんて。
謝らなきゃいけないと思ったのに、動揺して口が全く動かなかった。
頭が真っ白になってしまった。
友哉は何も悪くない。なのに、理不尽なことを言った優介に対して怒ることもせず、謝ってきた。
いっそのこと怒ってきた方が良かったのに。
胸の奥に何か重石を乗せられたように胸の中心が重く、苦しい。
激しい後悔に唇を噛みしめていると、珠美が優介の顔をじっとのぞき込んでいた。
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