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普通に、生きたかった、だけ……。
鬼っ子は震える手を珠美に重ねた。
彼の姿が少しずつ消えていく。
薄く、けぶるように肉体が揺らいでいく。
「あ………」
気づいた時にはもう、彼の姿はどこにもなかった。
代わりにあったのは珠美の足元に積もった灰だけ。
彼のいた場所に残ったそれが、地下室に吹いた一陣で少しずつ崩れていくのを見て優介は確信した。
「終わ、ったの……?」
「………うん。終わったよ」
差し出したままだった右手を大切そうに胸に当て、彼女は静かに答えた。
仙崎家に永くまとわりついた因縁の一つが、今ようやく終わりを迎えたのだと。
「体は……大丈夫?」
「さっきより気分はいいかな。でも、彼の力は……本当に強すぎるね。慣れるまではしばらく大変かもしれない」
ここに長くいるのもあまりよくないし。
そう言う珠美の顔色は悪くはない。
疲れ切ったかのようにぐったりとしている。
さらに声をかけようとして、優介は動きを止めた。
珠美の奇妙な表情を見て。
「ど……したの?」
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