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「……ね、優介くん。本当に、終わったんだよ」
「うん」
「もう力の暴走を心配しなくてもいい……人を傷つけることも、ない。もう、私、普通に生きても……いいんだよね」
笑いをこらえているような、今にも泣きだしそうにも見えるその表情。
あまり表情豊かとはいえない珠美の、たくさんの感情がにじみ出た顔だった。
何年もの間珠美も自分の力に苦しんできた。
ようやく解放されたのだ。
優介とは比べ物にならない、大きな感情のはずだ。
それをどう表現していいのか分からない、といったように珠美はこらえている。
「当たり前じゃないか……!」
思わず、優介は珠美の華奢な体を抱き締めていた。
終わったんだ。
長く苦しんできたことから解放された。
ここに来たときは、もう二度と彼女の顔を見ることができないと思った。
嬉しかった。
だから、優介はこらえられなかった。
腕の中にいる珠美が、くぐもった声で何かを言おうとしていて、思ったより力が入っていたことに優介は気がついた。
少し力を緩めて、珠美の言葉を聞こうとする。
「ご、ごめん……なん」
ふと。
言葉の途中で優介は動きを止めた。
「何の音……?」
「これは……」
珠美も何かの異変を察知し、目つきを鋭くさせた。
自然と体がこわばる。
唸るような、音。
それが地鳴りだと気がつくまでにほとんど時間はかからなかった。
遠くから得体のしれないものが近づいてくるような不気味な振動はだんだんと強くなっていく。
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