第十九章 魂の牢獄

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下駄箱で靴を履き替えた後、外に出てもそれは変わらなかった。 誰もいない。 人も、空を飛ぶ鳥さえも。 それどころか木々を揺らす風すらも感じられない。 まるで、はりぼてのような世界だ。 見た目は現実と何も変わらない。だが、それだけだ。 今は十二月。 冬本番を迎えているというのに、セーラー服にカーディガンを羽織っただけの格好でも寒さすら感じなかった。 その時点で、珠美はここが夢の世界ではないことを確信した。 ここは閉ざされた世界だ。 現実ではないが、夢でもない。 なぜかは全くもって分からないが自分はここに閉じ込められている。 「出られそうもない……か」 学校の周りにはぐるっと一周、奈落にでも通じそうな大穴がぽっかりと口を開けている。 そこは見えず、吸い込まれそうな暗闇がどこまでも続くのみだ。 さてどうしたものか。 なぜこうなっているのかが分からない以上迂闊に手を出すのは危険すぎる。 悩み、決めかねているときそれは突然珠美の身を襲った。 「……っ!?……ぐ、ぅ……っ」 身を内側から焼かれているような衝撃。  腹部が焼けつくような、そんな感覚。 熱さとも、痛みともつかない拷問のような責め苦が全身を貫く。 ここに肉の体はないはずなのに、全身の血液が沸騰したと勘違いするような感覚が襲う。 唇が噛みきれてしまうのではないかというほど、珠美は強く唇を噛んだ。 心臓が破裂するのではないか。 そう思ったとき。 「ああ、ぁぁあああ」 奇妙な声が漏れる。 記憶が濁流のように溢れてくる。  そうだ。 目が覚める前、自分は。 自分は。
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