第十九章 魂の牢獄

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「私は……来未を救いたい」 「そんなこと。たのんでない。わたしはだれにもすくえない。こののぞみをかなえることはだれにもできない……!」 珠美の言葉に来未は叫んだ。 血の涙を流しながら、頬の肉が剥がれ落ちながら、悲鳴のように叫ぶ。 「すくいなんてのぞんでいない!わたしが、のぞんだのは……!のぞんだのは………ただ、生きたい。それだけだった。たったそれだけだったのに!!」 その言葉は、珠美の胸に突き刺さるようだった。 生きたい。 その想いをかきけしたのは、自分なのだから。 何を言われても仕方がない。 でも。 「ごめんね……来未………それだけはどうしても。どうしても、叶えてあげられない」 失った命は取り戻せない。 生ある世界からこぼれ落ちた魂は、たとえどんなことがあっても取り戻すことはできない。 還る肉体もない、まして、十年も前に失われた命は。 それは、決して覆すことのできないこの世界の理だ。 そのことを来未も本当は理解している。きっと、誰よりも。 誰にも、どうすることもできないのだと。 それでも……この子のために、珠美ができることはまだある。 「でも輪廻の輪に来未を返すことはできる」 「………」 本来の流れの中に来未を戻す。 それは可能だ。 ここに囚われていては、来未は永遠にこのままだ。 どこにも行けず、どんどん負の感情を増大させ次第にあの異形のように、人であったことすら分からなくなってしまう。 今ならまだ間に合う。 幸いにして来未の魂はまだ穢れを負ってはいない。 他人の命を背負ってはいない。 珠美や鬼っ子と違い、生命の流れを乱していない来未は、まだ真っ白なままだ。 ならば、今世の記憶を洗い流し、輪廻の輪を巡れば……再び生を得ることもできる。 全く別の人格として。 相楽来未ではない人生を歩む。 それは遠い未来の話。
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