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「いきたかった…………っ」
「うん………」
「おいて……いかないで……」
「行かないよ。一緒に、いる」
「ほん、とう……?」
来未が珠美を見上げた。
眼球のない瞳からは赤黒い涙がとめどなく溢れる。
珠美はそっとぼろぼろの黒髪を撫でた。
「私が側にいるよ。だからもう……休んでいいよ」
「わ、たし、もう、いいの…………?」
血のような涙が、少しずつ透度を取り戻していく。
壊れかけていた魂が少しずつ本来の姿に戻っていく。
珠美の幼い頃を模した姿から、来未の姿形へと。
「もう……」
「もう。苦しいのは、終わり」
ここで一人で泣くことも。
誰にもなれなくて、珠美の姿を真似ることも。
来未が解放されたように涙を流す。
「ねえ…………うまれ……かわったら……また……あえる……?」
「それは…………」
赤ん坊へ戻っていく来未の言葉に、珠美は口ごもった。
「あえるといい……な…………だって……ほんとうは、わたし……」
おねえちゃんと、なかよしだったはず、なんだから。
少し舌足らずで、途切れ途切れのそれが、来未の最期の言葉だった。
珠美の腕の中で来未は静かに眠りについた。
「お休み…………来未」
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