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どっと、珠美の瞳から涙が溢れ出した。
これでもう二度とこの子と言葉を交わすことはない。
来未は今、本当の意味で死を迎えたのだ。
どうしようもなかったのだと頭では理解しても、心がまだついていってくれない。
本当は嫌だと喚きたい。
でもこれしかなかったのだ。
自分にできることはこれしか。
「おねえちゃん……て、呼んでくれると、思わなかったな……」
最初で最後の。
どうか。
「どうか、来世で幸せになって」
ただそれだけを祈っている。
両腕で抱き締めていた少女から、今は片腕で抱けそうなほど小さな赤ん坊。
それを、珠美はそっと抱き締めた。
重さはない。
この子は実体を持たない魂だけの存在なのだから。
それでも、眠る赤ん坊を起こさないように、大切に抱き止める。
「……っ、ふっ……」
涙が止まらなかった。
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