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どれだけ幅広いのだろう。
周りにいたのは、優介だけではなかった。
知らない人間が何人か、同じように立ち尽くしていた。
生気のない顔。
男も女も、年齢すらも何の規則性もなく彼らはそこにいた。
彼らはしばらくするとゆったりと歩みだし、川へと入っていく。
底がないのか。
彼らはその中に入り、ゆっくり沈み。
誰一人として戻ってくることはなかった。
これが、三途の川なのか。
「ほんとに……あったんだ」
不思議と怖いとは思わなかった。
光源なんてないはずなのに透き通って光を返すこの川は、きれいだった。
虹色に輝く川の中には赤い彼岸花が揺れている。
ここに入ってみたいと何故かすぐに思った。
ここに入れば……楽になれる。
けれど優介は留まった。
彼女のことを考えて。
自分は彼女のことを救えたのだろうか。
必死に守ろうとしたけれど、きっと無傷ではない。
無事を信じたいのだけれど。
優介にはそれを確かめる術がなかった。
だからここにいたのだ。
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