第二十章 境界

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もし自分のあとを彼女が追うことになれば、きっとここに来るはず。 ここが死の通過地点であることを信じて。 待ち続けた。 だが、彼女がここを訪れることはなかった。 ずっとはらはらして待っていたけれど、少し疲れてしまった。 きっと大丈夫だ。 優介は自分にそう言い聞かせた。 彼女のことを最後まで見届けられなかったことは心残りだが……。 ここでずっとうずくまっているわけにもいかない。 「いい人生だったし。もう……いいよな」 心残りは、たくさんある。 でも、もういい。 自分はきっと最期に珠美を救えた。 そう思ったら。 本当に何も惜しくはなかった。 「あとは、頼むよ」 水に手を触れようとしたときだった。 「もっっったいない!」 突如として聞こえてきた声に、優介は肩を跳ねさせた。 屈んで川底を覗き込んでいたというのに、思わず尻餅をついてしまうほど。 痛いと思ったのはほんの一瞬。 次に目に飛び込んできたものに優介は驚愕した。 七色に光を返す、底の見えない川。 そのほとりに腰掛ける黒髪の女性。 鮮やかな藤色の着物を着たその人は、足を川に投げ出した体勢で優介を睨み付けていた。 鬼のような恐ろしい形相……ではない。 唇を尖らせどこかふてくされたような顔をするその女性の顔を見て、優介は息を呑んだ。 
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