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「早すぎるわよ……」
彼女は少し呆れたようにため息をついた。
「あなたにとって守るって……何だったのかな」
「…………」
「珠美が生きてさえいれば、それでよかったのかしら……。あなたの命はそんな簡単に捨ててしまえるほど、軽いものだった?」
「それ、は…………」
優しい口調で問いかけられ、優介は言葉につまった。
だってそれは、考えないようにしていたことだったから。
まるでそれを見透かしたかのような彼女の言葉。
それが優介の何かを深くえぐって。
ずきり、と胸の奥が鈍く痛む。
答えは最初から出ていた。
死にたく、なかった。
最初に思い浮かんだのは、家族の顔。
忙しく働く母。慌ただしいけれど底抜けに明るい紗英。
二人が悲しむことなんて容易に想像できた。
二人だけじゃない。
友哉だって、花だって。
悲しまないわけがない。
悲しい顔をさせるのが自分自身だということが、辛くて仕方がない。
それくらい優介は、自分の生活を取り囲む人たちのことがきっと、好きだった。
大切だった。
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