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自分のせいで辛い思いをさせるのは、嫌だ。
でも他にどうすることができたのだろう。
あの状況で、珠美をかばう以外に自分にできることは何かあったのだろうか。
何もしなければ珠美はきっと死を迎え、優介は運よく助かったのかもしれない。
でも。
「どうしても。死んでほしくなかったんです」
感情を押し殺した硬い声音でそう答えた。
それが。たったそれだけが、あの瞬間優介を動かした想いだった。
優介に何かあったあと、誰がどう思うなんて考える余裕はなかった。
ただ、それだけだ。
「そう…………」
珠美によく似た顔をしたその人はそう呟いた。
感情の見えない表情。
それが珠美を彷彿とさせる。
どこか憂いを含んでいる、その横顔が。
その瞳の中にはきっとたくさんの感情が詰まっているのだろうけど、優介にはそれが読み取れない。
「たまちゃんは……おれが死んだことを知ったら、悲しむでしょうか」
ふと、そう口にしていた。
地下室が崩壊する寸前に見せた珠美の表情。
優介が知っている、どの表情とも違うものだった。
本当に解放されたのだと思える顔をしていた。
もう、普通に生きていいのだと。
どこか感情を押し殺しているように見えた頃とは、全く違う。
だから、きっと悲しむだろう。
優介の知らない表情で泣くのだろう。
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