第二十章 境界

7/27

716人が本棚に入れています
本棚に追加
/702ページ
彼女は優しい人だから。 胸の痛みはどんどん増していく。 (ごめん。悲しませたく、なかったんだけど、さ) もう二度と会うことはない人に優介は心の中で、謝る。 もう届きはしない。 どんな言葉も。胸のうちにあった大切な想いも。 もう二度と。 たくさんの約束をしていた。 それはほんの些細なことだったかもしれないけれど。 確かに二人を繋いでいた。 『ケーキを作ってもらおうよ』 希望を紡ぐように。 『またここで花火を見たいな』 未来を語った。 そんな日々は、もう遠い。 優介にはもう手が届かない。 「…………っ」 唐突に涙が溢れた。 いつの間にか……こんなに大切になっていた。 たった一人の人が。 何をしてでも守りたいと思った、あの人のことが。 一度二人が離れたとき。 自分で選んだことのはずなのに、離れることが辛かったのは。 一緒にいたかったからで。 ずっと、一緒にいたかったから。
/702ページ

最初のコメントを投稿しよう!

716人が本棚に入れています
本棚に追加