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彼女は優しい人だから。
胸の痛みはどんどん増していく。
(ごめん。悲しませたく、なかったんだけど、さ)
もう二度と会うことはない人に優介は心の中で、謝る。
もう届きはしない。
どんな言葉も。胸のうちにあった大切な想いも。
もう二度と。
たくさんの約束をしていた。
それはほんの些細なことだったかもしれないけれど。
確かに二人を繋いでいた。
『ケーキを作ってもらおうよ』
希望を紡ぐように。
『またここで花火を見たいな』
未来を語った。
そんな日々は、もう遠い。
優介にはもう手が届かない。
「…………っ」
唐突に涙が溢れた。
いつの間にか……こんなに大切になっていた。
たった一人の人が。
何をしてでも守りたいと思った、あの人のことが。
一度二人が離れたとき。
自分で選んだことのはずなのに、離れることが辛かったのは。
一緒にいたかったからで。
ずっと、一緒にいたかったから。
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