第二十章 境界

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「私は……あの日、娘を守りきれなかった」 静かな声に優介は顔を上げた。 涙で滲んだ視界の中、彼女は優介を見つめている。 「今でも、後悔しているわ。私の選択のせいで娘たちに辛い道を歩ませることになってしまった。守れなかった……母親なのに。……この川に沈まず、見ていることを選んだのは自分に対して課した罰」   見ていることしかできないのは、辛かった。 どれだけ叫んでも声を枯らしても、届くことはないのだから。 助けてあげたくてもその想いは届かない。 側にいることすらしてあげられない。 そう彼女は続けた。 「でも、あの子はようやく見つけたのね。導いてくれる人に」 「…………導く」 「あなたに出会ってあの子は変わった。本当にゆっくりだけど、前に手を伸ばそうとしている……失った人間らしさを取り戻そうとしている。それは、あなたのお陰でしょう?」 「そんな、はずはないです。おれには何の力もない。見ることしかできなくて、助けたいと思っても、こんなことしかできないおれが……たまちゃんを変えるなんてこと」 あり得ない。 足を引っ張るだけだった自分を迷惑そうに見ていた珠美の顔が浮かぶ。 そうだ。 あんなに迷惑だ。 足手まといだと言われて。 あげくの果てには彼女の身を危険にさらすような自分が、そんなことできるわけがない。   しかし。 「特別な力があるから、誰かを救えるのかしら……」 静かな一言が優介の思考を止めた。 「……それ、は……」 「私は、そうは思わない。特別な力があるから人を救える訳じゃない……。あなたが救われたと思ったとき。人から何かをされて嬉しい気持ちになったとき」 そこに、霊が見える力なんて。夢占いや魂に触れることのできる力なんて。 本当に、関係あった?
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