最終章 再会

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「……え……」 いつもならここですでに渡れず定位置に戻っているのに。 足場の悪い線路を小走りで抜けていく。 彼女の白いワンピースが翻るのが視界に写る。 踏切を渡るまではあっという間だった。 信じられない。 あれだけ渡ろうとしても渡れなかったのに。 どうして。 彼女はどうだと言わんばかりの自慢げな表情をした。 つないだままの手を見つめる。 幽霊に触れている。 そんなことあり得るのか。 どう見たって生きている人間が、死んだ人間に触れるなんてそんなことあるのか。 信じられない気持ちで彼女を見つめる。 「渡れたよ。これで進める。だから……どうか来世では、幸せになって。大丈夫、きっと大丈夫だから」 その言葉が、ひどく優しい。 優しくて、時を止めた胸の奥がつんと痛んだ。 同情ではない。 僕を見て、僕だけに言ってくれたその言葉。 幸せになって。 大丈夫。 ずっと誰かにそう言ってほしかった。 「死んじゃったけど……いいのかな」 「うん」 「自分で自分のこと捨てたけど、それでも……いいのかな」 「うん!」 迷いを微塵も感じさせない彼女の返事が僕の何かを断ちきる音がした。 視界が白く染まっていく。 眩い光の中に埋もれていくように。 成仏しているのか。 ああ、待ってくれ。 まだ、彼女の名前を聞けていない。 「き、君は………」 光の中に溶けていきそうな彼女の瞳が赤く煌めいたような気がした。 「私……?私は…………」 『鬼っ子』っていうんだよ。 【完】
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