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ピピピピピ、と部屋に鳴り響いた電子音が耳の奥に届く。
沈んでいた意識が浮上するのを感じながら、優介は手を伸ばした。
指先にデジタル時計のボタンが触れるとたちまち音が止まる。
それを確認することもなく優介は伸ばした手を更に伸ばして大きく伸びをした。
「あぁ……ふあああああ」
我ながら力のない声が出る。
思う存分欠伸をしていると段々眠気も覚めてきた。
見慣れた天井がカーテンの隙間から差し込む光で反射していつもより白く見える。
ちらりと見た空は快晴そのもの。
今日も暑くなりそうだとまだはっきりとしない頭でぼんやり考えていた。
横たわったまま部屋を見回した。
殺風景な部屋だなと他人事のように思う。
1Kの室内には必要最低限のものしか置いていない。
テレビ、ノートパソコンにテーブル、ソファ、ベッド。
正直家具なんてそれくらい。
もちろん、家電は一通り揃っているものの、インテリアなどにあまりこだわりがないのだ。
唯一賑やかなのがテレビの背面の壁だった。
そこにあるのはたくさんの写真。
デジタルなこの御時世に、旧友二人がわざわざ写真を印刷して遊びに来たのがずいぶん前のように感じられる。
二人は退去するときの壁の修繕費を心配する優介をよそに、画鋲でぶすぶすと情けも容赦もなく写真を張り付けていった。
『画鋲の穴くらいなら請求されないから大丈夫だ!』
どこまで信用していいのか分からない親友のその言葉。
だがもうやられたあとではどうしようもない。
優介が諦めたのを知ってか知らずか、壁の写真は時を追うごとに増加の一途を辿っているのだった。
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