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――ずるっ、ずるっ。
何かを引きずるような音が聞こえた。まるで這い回っているかのようだ。
生きている人間ではない『何かが』、職員室の中にいる。そして『それ』は、職員室の出口に向かっている。
すなわち、優介のいる廊下へと。
姿は見えなかった。見えてしまったらきっと、優介は動けなくなっていた。今まで見てきたものとは格が違う。そして、『あれ』は優介を探している。
あまりの恐怖に情けないほど呼吸が乱れ、足が竦む。
『あれ』に見つかってはいけない。逃げなければ。
昇降口が開かない今、逃げ場は二階しかなかった。
もつれる足を叱咤しながら木造校舎の階段をなるべく音がしないように上った優介は、一番奥の教室に逃げ込んだ。
もうこの際二階でもいい、怪我をしてもいいから外に出ようとすぐさま窓を開けようとするが、鍵がかかっていなくても窓が開くことはなかった。
「くそっ!」
焦りと恐怖から悪態をつくと。
――ミシミシッ。ギシッ。ギシッ。
階段を軋ませながら、ゆっくりと二階へ向かってくる音が聞こえた。
逃げられない……。ならせめて、隠れなければ。
まだ机や教卓が置かれていて昔の面影を残す教室は、あまり隠れられる場所がなさそうだった。
それでも何とか、壁に寄せられた教卓の中に体を押し込んだ。
だが、優介の心には不安がどんどん流れ込んでくる。
――いつまでここに隠れていればいい?
――この小さな旧校舎を隈なく探されたら、自分は絶対に見つかってしまう。
――見つかったら……、どうなる?
――外部に助けを求めようにも、携帯がなくてはそれもできない。
――こんなことになるなら一人で来るんじゃなかった。
他の教室を『あれ』が探している気配が伝わってくる。
終わりの見えない恐怖に目尻に涙が溜まってくる。
嗚咽をこらえ、身じろぎをすると。尻の辺りに何かが当たった。
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