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第七章 林間学校 後編
何かあった。
朝食を共に食べる優介を見て珠美はそう思った。
本人はばれないと思っているのか、さっきから花や友哉と話をして作り笑いを浮かべている。
だが、目の下にできた隈とそのひきつった表情が全てを物語っている。
一体どんな目にあったか知らないが、幼い頃から霊が見えているのならばそれなりの経験をしているはずだ。
いい加減慣れてもいいのにと珠美は思う。
見えるのは、仕方のないことなのだ。
そういう体質。
人間には必ず第六感というものが存在する。
珠美も優介もたまたまその力が突出していただけに過ぎない。
そういう人間は決して少なくはないのだ。
たから、一々見えたものや体験したものに関して一喜一憂なんてしていられない、というのが珠美の持論だ。
それをある人物に話したときは、お前はもう少し物事に対して一喜一憂した方がいいと言われてしまったのだが。
(優介くんは、まぁ………仕方ないのかな)
優介は、珠美とは違って見えるものに対しての対処法を何一つ持たない。
本当にただ見えるだけ。
そして優介は霊の感情をダイレクトに受け取ってしまう。
だからこそ必要以上に怯えるのだろう。
ぼんやりとそんなことを考えていると、優介と目があった。
目があった途端優介はさっと目をそらし、スクランブルエッグを口の中にかき込む。
「…………」
時折珠美は優介のこういう態度にかすかな苛立ちを覚える。
本当は聞いてほしいくせに、言い出せない。
そういう中途半端な態度に。
言いたいことがあるなら言えと思ってしまう。
そこまで考えたところで珠美は自分自身に疑問を抱いた。
普段の自分はこれくらいのことで苛立つような性格ではない。
ちょっとしたことに感情を左右されるのは嫌いだからだ。
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