第十二章 夏祭り

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第十二章 夏祭り

   所狭しと立ち並ぶ出店。 暗闇をぼんやりと照らすのはたくさんの提灯。 それぞれの屋台に吊された風鈴がじっとりとした暑さを冷ますように涼しげな音を奏でる中。 普段あまり聞くことのない下駄の音が耳に心地いい。   カラン、コロン。 カラン、コロン。   だが優介はその音色に心を奪われることなく人混みを掻き分けていた。 必死で人の間をすり抜けて。 ぶつかってしまった人にすみませんと頭を下げて。 息が上がりかけてきたとき、ようやく優介は目的の場所に辿り着いた。 「ごめん、遅れて!」 「おっせーぞ、優介!」 神社の鳥居の前。 そこには、鳥居に寄りかかり腕を組む友哉。 そして花と珠美の姿。 三人のもとに駆け寄った優介はすぐさま頭を下げた。 それに対し、友哉はすかさず文句を言う。  花も遅い!と一言。 優介は何度もごめんと頭を下げる。 「待ち合わせ場所勘違いしててさ、神社の裏でずっと一人で待ってたんだよ」 花と友哉が顔を見合わせた。 「なんか……なぁ」 「うん………なんかねぇ」 薄暗くても優介にははっきりと分かる。   二人が呆れ顔をしているのが。 今日。 四人で夏祭りに行く約束をした。 そして優介は、その待ち合わせ場所を勘違いしてしまったのだ。 神社の裏道で優介は一人、友哉たちを待っていた。 だが。 待てど暮らせど三人は来ず。 それどころかみんなから電話やメール攻めを食らう羽目になった。 『今どこ?』 『もう時間過ぎてんぞ』 『迷子?』 矢継ぎ早のメールを読んでいるときにようやく気づいた。 自分が勘違いしていたことに。 一体何をどう間違ったらそんな勘違いをするのか。 自分でも分からないが、とにかく優介は神社の鳥居と神社の裏道を勘違いしていたのだ。 そこから本気で走って走って。 そして、今に至る。 膝に手ををついて息をつくと、汗が頬を伝った。 当たり前だ。 もう日が暮れたとはいえ、猛暑の中全速力で走っていたら誰でもこうなる。 「まあ、優介くんらしいよね」
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