第十七章 神隠し

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第十七章 神隠し

暗い空が、一瞬白く光った。 続いて鳴り響く轟音。 「はぁ……まじですごい天気っすね……」 一軒のコンビニエンスストアに停めた希の愛車の中。 助手席に座る一人の男は声色と寸分違わぬやる気のない表情をしていた。 まあ、気持ちは分からないでもない。 車を叩きつける激しい雨はまだまだやむ気配がない。 今外に出ていけば一瞬にして濡れ鼠になるのは目に見えている。 というより、もう少し雨が弱くならないと運転すら危険だ。 ワイパーが全く追いつかないほどの豪雨。 慣れ親しんだ町ならまだしも。 初めて訪れたこの町を、強行突破してまで運転するつもりは希にはなかった。 正直なところ疲れもある。 この町にくるまでの運転はずっと自分がしていたのだ。 希は、車の運転が好きだ。 長時間の運転も苦にならない。 だが、だからといって疲れを感じないというわけではない。 ましてや。 町に入ってすぐに出迎えられた雹。 鉄の塊である車を傷つけるには十分だと思った。 大事な自分の車に傷がつくことを希は覚悟した。 その時点でいらいらはピークに近かった。 雹が止んだと思ったのもつかの間。 次に襲われたのは湿気を含んだ重いみぞれ。 車の運転をしていてここまで疲れたのは、もしかしたら初めてかもしれない。 その疲れのせいだろう。 何だかいらいらする。 それもこれも……。 「最初っからあんたが運転してりゃよかったのよ……!」 希の喉から唸るような低い声が漏れると助手席の男はうひ、と怯えたように肩をすくめた。 「だって仕方ないじゃないっすか……先輩がじゃんけん負けたんですから」 「本当にあたしのことを先輩と思ってんなら後輩らしく自分が行きも帰りも運転しますとかいうべきなんじゃないの」 「ああ俺そういう気が利かないんで」 へら、と笑いかけられるといらだちは増すばかりだ。 この男は昔からこうだ。 へらへらと笑って……。 それが人の感情を逆なですると知っていてやっているのだから本当にたちが悪い。
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