第十八章 鬼っ子

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第十八章 鬼っ子

人は神に。 神は鬼に。 転じる。 「………え?たまちゃん今何て言った?」 間抜けな顔をして優介は思わず聞き返してしまった。 それに対して、だから、と言葉を続けたのは寒そうにコートの袷を掴むたまちゃんこと相楽珠美だ。 「ここから見える範囲は全部仙崎家の敷地なの」 事も無げにそう告げる。 「………………」 大きな屋敷の門の前で優介は辺りを見渡した。 視界にあるのは、冬に入り枯れ葉もほとんど落ちたあとの山。 今は寂しい見た目になっているが、春になれば青々とした光景が広がるのは想像に難くない。 見渡す限り、山。山。山だ。 これが全て? 信じられない思いで珠美を見つめた。 あんぐりと口を開けたままだったから彼女には何て顔をしているんだと呆れられてしまったが。 「たまちゃんて、お金持ちの家の人だったんだね……」 「別に私の所有してるものじゃないよ。第一私はこの家の血を引いてるだけで仙崎の人間じゃないしね」 「あら、でももし当主が亡くなったりしたら財産分与はあたしと珠美に下りてくるのよ?」 ここで声を上げたのは車を敷地の外の駐車場に停めて戻ってきた希だ。 「別にいらないよ」 「貰えるもんは貰っておけばいいじゃないの、子どもねえ」 ため息をつく珠美に希は苦笑した。 一方の優介は話についていけず、置いていかれるばかりだ。 だって、一体誰がこんなこと想像できるのだ。 ただでさえこの大きな日本家屋を見て度肝を抜かれていたというのに……こんな広大な土地がクラスメイトの親戚のものだなんて。 「ま、そんなことどうだっていいことね。一休みしたいし、そろそろ中に入りましょ」 「……うん」 希に促され、自分の住む町ではめったに見ない大きな屋敷へと一歩足を踏み入れた。 しかし、珠美はそこから動かない。 優介が振り返ると彼女は目を細めながら母の実家を見ていた。 その瞳に込められた感情は、懐かしさだけなのか……。 「……ここへ来るのは久しぶり、だな」 「たまちゃん?」 声をかけると珠美ははっとしたように優介を見た。 「大丈夫?」 「ん、何でもないよ。ただ懐かしんでただけ」 「そっか」 そうは言うが彼女がどことなく緊張していることに優介は気がついていた。
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