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第二十章 境界
朝靄のような霧が視界を埋め尽くす。
「あああー。終わ……った」
薄暗い場所に立ち尽くしたまま、優介は一人呟いた。
簡素な病院着を着ているけれどどう見てもここは病院ではない。
どうやら、自分は死んだらしい。
そりゃあそうだよなと冷静に頷く。
優介は自分の身に起きたことをよく理解していた。
背から腹にかけて貫通したあの太い梁。
正直、痛みなんてレベルではなかった。
あの暗い地下室で優介は死を感じた。
目を閉じる前に感じた珠美の体温だけをやけにはっきりと覚えている。
恐ろしいほどに白い、己の手のひらを見つめる。
確かにこの手の中にいたはずなのだけれど。
次に気がついたときには、一人ここに立っていた。
ここがあの世だということにはすぐに気がついた。
土と、水の匂い。
さあさあと空気が揺れる音が聞こえるから、すぐ側には川があるのだろう。
優介の見たことがない景色だった。
夕焼けとも朝焼けともつかない色と青空が混ざったような空の色。
湿度のある空気がまとわりついてくるが、不快ではない。
少しして、優介は川を見つけた。
川はどこから始まってどこまで流れているのか。
直線のため、よく分からない。
向こう岸すら見えなかった。
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