夏祭り

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今日のデートはさんざんだった。せっかく着て行った浴衣の帯はくずれるし、下駄の鼻緒は破れるし、かき氷はこぼれて半分も食べられないし。絶対楽しいはずの夏祭りだったのに、こんなのってない。悠太もきっとそう思ってるんだろう。だからこんなに、無言なんだ。とぼとぼと二人で帰り道を歩きながら、こんなんなら今日デートなんかしなきゃよかったと思っていた。 まず今日は、会った時から悠太は変だった。会うなり黙りこんで、一人でずんずんと歩き出すから、追いつくのに苦労した。それで急いだ所為で、下駄の鼻緒が切れた。 いいよって言ったのに、悠太は自分のスニーカーを貸してくれて、裸足になった。ごめんねって謝ったけど、ああとかまあとか曖昧な返事しかしてくれなくて、これで怒っちゃったのかなと思った。 それでもお祭りをやっている会場に着いたら、楽しもうという気分も弾んだ。悠太もいつもの調子を取り戻したみたいで、射的なんか結構盛り上がって、楽しかった。そう、このときまではよかったんだ。 でも人ごみを歩くうちにだんだん浴衣の帯がくずれてきて、私はそれが気になっちゃうし、だんだんまた悠太の機嫌も、悪くなっていった。 そして極めつけはかき氷だ。本当に、あれを頼まなかったら、なんとなく気まずいくらいで今日は帰れたかもしれないのに、もう最悪になってしまった。かき氷をこぼすなんて、小学生でもやらない。 もう帰ろうか、と言った悠太の声は冷たかった。だから花火が始まるのも待たないで、私たちは帰路についてしまった。そして今に至る。
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