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夏休みにおいて恋愛の最大のイベントといえば、そう、花火大会だ。本日、地元で開催される花火大会。そこに向けて、夏休み前は好きな相手をどうやって呼び出すか、多くの駆け引きが行われた。
そんな駆け引きの末、見事クラスで可愛いと評判の女子と花火大会に行く権利をゲットした幸運な高校生男子となった中林慶太は、恐ろしく気合いが入っていた。
「このまま、このまま先の関係まで続きますように」
さすがに口に出して言うのは憚られるその先に想像を巡らせ、思わず、鼻血が出ていないか確認。これからその可愛らしい美少女、早乙女由衣がやって来るというのに、鼻血が垂れていたら一大事だ。
「にしても」
さすが、誰もが恋愛の駆け引きに利用するだけあって、花火会場最寄り駅は人でごった返していた。一体どこにこんなに人間が生息していたんだと、驚くほどの人混み。
まあ周辺の市町村からもやって来るだろうし、物好きならば遠方からここまで足を伸ばしている可能性はある。が、人が多い。
「この先一方通行となります。立ち止まらないようにお願いします」
花火の時間が近づいてきて、そんな注意の声が一段と大きくなっている。一方通行。つまり、はぐれても探しに戻れない状況。
「まだかな」
待ち合わせの時間まであと五分。すでに三十分前からスタンバっている慶太は、着慣れない浴衣をぱたぱたやりつつ、暑いとぼやく。
「ああ。浴衣って失敗かも」
「そんなことないよ」
急に聞こえた声に、びくんっと反応してしまう。その可憐な声はもちろん、早乙女由衣のものだった。
「あっ」
そして、その由衣も浴衣を着ていた。よかった。自分だけ浴衣だったら、どれだけはしゃいでいるんだと引かれるかもという懸念もあっただけに、よかった。
「じゃ、行こうか」
「うん」
ああ、胸高鳴る人生最高の瞬間。慶太はそれに浮かれつつ、どこでいつお付き合いを申し込むか。そればかりに気を取られた。
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