花火の夜に・・・

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「あっ」  あっという間に二人の間に人が大量に雪崩れ込み、見事にはぐれてしまう。 「中林君」  と、遠くで由衣が呼ぶ声がするのでそれを頼りに動くが、いかんせん、とてつもない人混みだ。くそっ、全然進めない。 「押さないでください。花火は逃げませんよ~」  先ほどとは違う朗らかな注意が聞こえたが、花火ではなく慶太の場合は人生最大のチャンスが逃げようとしているのだ。焦る。めちゃくちゃ焦る。 「おい。危ねえだろ」 「うおっ」  必死にかき分けて進もうとしていたら、後ろからむんずと襟首を掴まれて止められた。目の前に小さな子がいたのに気付いていなかったのだ。その子は巨大な高校生が目の前に現れて、きょとんとした顔をしている。向こうもまったく気付いていなかったのだ。 「げっ」 「なんだ。中林か。こんな人混みに似合わねえ男が何してんの?」  が、未然に事故を防いでくれた相手に驚かされる。なんと、それはクラスでイケメンとして人気の橋本和毅だった。そしてこの和毅は、あの由衣と一緒に花火に行くのではと噂されていた男でもある。 「べ、別に」 「まあ、そうだな。花火を楽しむ権利は誰にでもある」  目を逸らす慶太に、和毅は冷たく言う。そして言葉とは裏腹に、襟首から手を離してもらえない。 「あの、離してくれるか。もう早く進もうとしないし」  どうせこれではなかなか由美と合流できそうにない。それに和毅を連れて合流しようものなら、告白の権利はこいつに移ってしまうのではないか。そんな懸念もある。 「ふん。そうか?で、お前も誰かとはぐれたのか?」 「え、うん。ゲーム友達とね」 「へえ」  咄嗟に白々しい嘘を吐く慶太に、当然、和毅は疑いの眼差しだ。どんな冴えない男子でさえ年に一度のビッグチャンスを逃すはずがないだろうと、その目は探りを入れてくる。
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