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ー Prologue ー
ダウンライトだけ灯された部屋は淡い闇に包まれていた。
低く響くエアコンの音が空間を満たし、静けさをいっそう際立たせている。
キングサイズのベッドの上、素肌にシーツを巻きつけただけの格好で、あたし、浅倉奈緒は力なく横たわっていた。
「だいじょうぶ?」
心配そうに、響(ひびき)がのぞき込んできた。
「へいき、少し疲れただけ」
顔を見られるのが恥ずかしくて寝返りをうった。
すると、ベッドの横に垂れ下がる大きなロールカーテンが目に入る。
シックな装飾が施されているとはいえラブホテルはラブホテル、おおかたカーテンの向こうには、壁一面の鏡が嵌めこまれていたりするのだろう。
「ベッドの奈緒って、意外と可愛いんだね」
後ろで笑う気配がした。
ちょっと待ってよ、とあたしは思った。
ついさっきまで浅倉さんって呼んでいたのに、コトが終わったらさっそく呼び捨て?
おまけに意外と可愛いなんて失礼にもほどがある。
何か言い返してやればいいんだけど、今はそんな気持ちにならない。
体の奥で甘い余韻がまだ糸を引いてる。
言葉を考えることすら気怠い。
「声を我慢してるくせに、けっきょく我慢できないって感じの喘ぎ方、いいよなぁ」
どこか上から目線のその言い方が、さらにカチンときた。
「気に入ってもらえた?その方が、峠野(とうの)君のお好みかと思って」
気怠さを振り切ってそう言ってやった。
実際には年下の彼に終始ペースを握られ、されるがままだったなんて認めたくない。
「そうだね。かなりお好みかも。奈緒って、奔放なセックスをするのかなって思ってたから、なおさら」
言いながら、響はベッドを下りた。
そして、
「やっぱ、こうでなくちゃ」
嬉しそうに呟きながら、バスルームへと消えていった。
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