908人が本棚に入れています
本棚に追加
シャワーを浴びて部屋に戻ると、響はバドワイザーを片手にテレビを見ていた。
流れているのは木村カエラのPV。
リルラリルハ
ケーブルテレビの音楽チャンネルかなにからしい。
アダルトビデオなんか見ていないところは、とりあえず合格点だ。
「木村カエラ、好きなの?」
画面を見つめる横顔を眺めながら、ソファの隣に腰を下ろす。
響は「まあね」と短く答えた。
あらためて明るい場所で見る彼の横顔は、やっぱり素敵だった。
真っ直ぐに通った鼻筋と形のいい唇のバランスが絶妙で、思わず見入ってしまう。
人形のような横顔。
シャープなラインの眉が、顔全体の印象を優しすぎないように引き締めているけど、眉を柔らかく整えてメイクをすれば、かなりの美少女でも通りそうなくらいだ。
響はちらりとあたしを見ると、
「はいこれ、奈緒の」
テーブルの上に置いてあったもう一本のバドワイザーを差し出した。
お礼を言って、受け取った缶を開ける。
「他には?どんな曲を聴くの?」
ひとくち飲みながら聞いた。
「ポルノとかミスチルとか、かな」
響は画面を見つめたまま答えた。
ありきたりと言えばありきたりだけど、音楽の趣味は合いそう。
「奈緒は?」と聞かれたので、
「私も同じかな。あと大塚愛ちゃんとか…」と答えた。
シャワー上がりのあたしが隣にいるのに、画面のカエラちゃんにご執心の彼には面白くなかったけど、じっと見つめる横顔にはキュンとくるものがある。シワだらけにされたスーツについてひとこと言ってやろうと思っていた気持ちは、いつの間にかしぼんでいた。
彼から少し離れて、手持ちぶさたにバドの缶に口をつけていると、やがて軽快なリフと共にPVが終わった。
すると突然画面から目を離し、響がこちらを向いた。
「じゃあさ、こんどコンサート行かない?チケット取るからさ」
ぼーっと横顔に見とれていたあたしは、不意をつかれて目をしばたたかせた。
「いい、けど」
口元にバドをあてたまま答える。
「けど、なに?」
顔を覗き込んでくる。
「なんでもない」
思わず目をそらした。
このとき、あたしは彼の気持ちを測りかねていた。
この子は本気であたしとつき合いたいと思ってるのだろうか?
憧れていたとは言われたけど、好きだと言われたわけじゃない。コンサートに行こうなどという言葉だって、この場の雰囲気が言わせた気まぐれかもしれない。
「なんでもないってなんだよ」
響は二人の間のスペースを詰めると、身を屈めて顔をくっつけてきた。
顔を逸らして逃げようとすると、身を乗り出して追いかけてくる。
「やめて、ビールがこぼれるじゃない」
眉をしかめてもお構いなしにあたしを見つめてる。
「奈緒は分かってないよ」
吐息が掛かるほどの距離で、彼は呟いた。
「分かってないって、なにが?」
「俺の気持ちだよ」
軽く睨むような視線に射抜かれて、鼓動が一気に跳ね上がった。
ショットバーでもそうだったのだけど、あたしは彼のこの手の表情に弱いらしい。
響の端正な顔に甘く睨まれると、身動きが取れなくなる。
「気持ちってなによ」
「気持ちは気持ちだよ。奈緒に対する俺の気持ち」
「そんなの、分からないわ」
駄々っ子のように言うと、彼は小さく溜息をついた。
「今夜こういうふうになって、奈緒が思ってるよりずっと嬉しいんだよ。俺」
「そんなこと……」分かるはずがないと言おうとした瞬間、「ん、っ……」あたしの答えを遮って彼が唇を重ねてきた。
彼の手が伸びて、あたしの手からビールを取り上げ、テーブルに置く。
そしてあらためて強く抱き寄せられる。
初め啄むように、そして擽るように動く唇を割って、やがて舌が滑り込んでくる。
あたしは、ゆっくりと瞳を閉じた。
そして、つけっぱなしのテレビから流れるPVをBGMに、ふたりはこの日一番長いキスをした。
響のキスは、やはり上手だった。
激しいけど優しくて、切ないくらいもどかしい。そしてなにより気持ちよかった。
柔らかくした舌を絡め合うと心と体のボルテージが一気に高まり、あたしは縋りつくように彼の背中に手を回した。
唇の隙間から漏れる水音、そして乱れて絡まる二人の吐息。
やがて彼が唇を離すと、二人の間に透明な唾液の糸が伝う。
瞳を潤ませ、息を荒くしながら、あたしは響の顔を見上げていた。
「一度抱いてみたかっただけじゃないの?」
甘えた声になってしまったけど、今はもうどうでもよかった。
「奈緒のこと?」
小さく頷いた。
「そ、抱いてみたかったんだ。でも一度じゃないよ。何度も、何度も、ずっと」
言いながら、彼はあたしのバスローブの胸元を広げた。
シャワーの火照りでほんのり桜色に上気した乳房がこぼれる。
「ぁ……」
柔らかくした舌と唇が立ち上がった乳首を捕らえる。
あたしは体を縮め小さく喘いだ。
彼の指先が伸びて、もう片方の乳首を摘み上げる。
乳首を潰すような指の動きに、痺れるような快感が背筋を這い上がった。
もっと話したかった。
もっと彼の言葉を、彼の気持ちを聞きたかったのに、
この日すでに高みを知っている体は、素直に彼の愛撫に反応してしまう。
力が抜けて、会話なんかどうでもよくなる。
乳首を口にふくんだまま、響がバスローブの帯を解いた。
襟元が大きく左右に押し開かれると、シャワー上がりの裸身が露わになる。
「ゃだ、明るい」
灯りを消して欲しくて甘えた声で言うと、彼は舌を動かすのをやめた。
「このままでいいよ。見ながらしたいんだ。奈緒の顔や、体や、全部」
そう言われるとなにも言い返せなかった。
このまま彼にすべてを委ねてしまいたいという気持ちになる。
明るい場所でのセックスは恥ずかしくて好きじゃない。でも、響が望むならそれに応えてあげたい。
チロチロと舌を動かしながら、胸元からお腹のほうへと唇が下りていく。
そしておへその辺りまで達したところで、彼はソファを下り、あたしの前に膝をついた。そして両膝に手を掛ける。
彼が何をしようとしているかはすぐに分かった。
あたしは小さく息を飲んだ。
思った通り、彼は閉じた両膝を持ち上げ、ゆっくりと左右に広げていった。
両脚をMの形に広げられ、あたしの全てが彼の目の前にさらけ出される。
ソファの背に押しつけられた体は、反り返らせることもできず、大きく顔を逸らすこともこともままならない。
「ゃ……」
泣きたいくらい恥ずかしい。
「綺麗だよ、奈緒」
言いながら響は、広げた内股に小さくキスをした。
こんな場面で誉められたからといって、どんな顔をしたらいいというのだろう。
「こんなの、恥ずかしいよ」
あたしが言うと、彼はクスリと笑った。
「奈緒って、ホントに恥ずかしがりなんだ」
明るい場所でじっくり見られるも恥ずかしいけど、それ以上にこの状況で会話を交わすことが恥ずかしい。あたしが何も答えられずにいると、「可愛いよ」と響はいきなりあたしのその唇にキスをした。
「ぁ、ん……」
ぴくりと体を震わせて喘いだ。
でもそれはいわゆるバードキス。唇をすぼめて軽く突っつくようにキスしてくれただけ。
「じゃあもう一度聞くよ。いいけど、なに?」
「え?」
「さっきコンサートに誘ったとき言ったよね?いいけどって。いいけど、なに?」
「そんなの……」
答えに詰まるあたしを見上げながら、彼はもういちど下の唇にキスをした。
今度は数回啄むように。
あたしは小さく喘ぎながら、焦れたように腰を左右に揺らした。
「答えないとこのままだよ」
すっごい意地悪。
でも、こういう意地悪は嫌いじゃない、かも。
「そんなの、憶えてない」
「ならもう一度聞くよ。コンサート、一緒に行こう?」
上目遣いの視線を感じて、あたしはただコクリと頷いた。
ふっと小さく彼の微笑む気配がした。
次の瞬間、彼の唇があたしの下の唇を捕らえた。
「ああ……っ」
焦らされた上に、突然与えられた刺激に、あたしは悲鳴に似た声を上げた。
そこを口でしてもらうのは初めてじゃない。でも、ベッドの上でならともかく、ソファに座ったままというのは初めての経験だった。
そのうえ部屋の灯りは点いたまま。
背もたれに体を押しつけられた状態で脚をM字に引き上げられると、背中も首も反らすことができず、自分の下半身を覗き込むような姿勢になる。そして、そこにキスする彼の口元がいやでも目に入ることになる。
前髪の向こうで伏せた長い睫毛、きれいに通った鼻筋の下で形のいい唇の間から伸びる舌先。
「あ……ぁぁ……」
その情景は限りなく淫靡で、あたしはすごく感じてしまっていた。
シャワーで洗い清めたばかりのそこは、もうすでに恥ずかしいほどの潤を湛えて、彼の舌の動きに合わせて淫らな水音を立ち上らせている。
唇にそえた人差し指を噛んで声を耐えようとしても、あふれる声を堪えることができない。
やがて、たっぷりと舌先であたしを鳴かせたのち、彼は立ち上がりバスローブの帯を解いた。
「今度は俺が座るから、奈緒が上になって」
そう言いながらバスローブを脱ぐと、響の全身が露わになった。
彼もまた、とても興奮していることが一目で分かった。
あたしは小さく頷いて彼にソファを譲った。
そして彼の体を跨ぐ。
うながされて手に取った彼は、とても硬くて、熱かった。
それを中心にあてがうと、あたしはゆっくりと腰を落としていった。
最初のコメントを投稿しよう!