第一章

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第一章

 その日、一日中おれの機嫌は悪かった。  さっきのケンカでかすり傷を負ったせいもあるが、その日はなにしろ蒸し暑かった。  期末テスト期間中だから学校は昼まで。今は午後二時四十分。まだ七月に入ったばかりだというのに気温は三十度を越え、しかも晴れてるのに湿気がすごくて、汗がダラダラ流れ続けてる。おれ的に不快指数マックス。イライラする。さっきのケンカ相手、殺しとけばよかった、と変な後悔まで胸に膨らんできた。  そんなときだったから、ひとけのない道の途中で十人の見知った不良どもに取り囲まれたと気づいたとき、おれは思わずニヤリとほくそ笑んだ。こっちは一人だ。手が滑ったふりして一人くらい死なせたって正当防衛で逃げられるに違いない。  おれがそんな腹黒いこと思ってるなんて、やつらが知るはずがなく、きっとビビってる内心をごまかすために笑ってるんだと決めつけてる顔。以心伝心で近くの空き地に無言で誘導された直後、実際、やつらは十人全員で一斉におれに突進してきた。  十人いれば勝てるってか? おれはダテに悪魔と呼ばれてるわけじゃない。まあ、決してその呼び名を気に入ってるわけではないのだが。  「悪魔は悪魔らしくこの世からいなくなりやがれ!」  残念だな。悪ほど世にはびこるもんだ。世の中の偉い連中見てれば分かるだろ?   〈悪貨は良貨を駆逐する〉  森羅万象の真実をついたいい言葉だ。っていうか、これはおれの座右の銘でもある。  おれの髪は金髪で、伸ばしてないが髪質が硬いせいで髪はつんつんに立っている。幼なじみで小学校からの悪友の樹里に、ライオンのたてがみみてえとよく感心された。だから、腕にタトゥーを入れるとき、よくあるドラゴンではなくライオンで彫ってもらった。ピアスももちろんライオンハート。一時期はライオンハートのピアスを片耳に五個ずつつけていたが、さすがにウザくなって最近はお気に入り一つだけだ。  金髪にタトゥーにピアス。それだけでなく、右の頬にざっくりと切り傷まである。これはもう治らないそうだ。こんな顔でカタギの仕事につけるのだろうか? ダメならヤクザにでもなってオヤジの言うとおりロクでもない死に方をするしかない。  もしかすると、ヤクザになる前にロクでもない死に方をするかもしれないけどな。それが今日だとしてもおかしくない。目の前の十人の雑魚どもにおれが負けるとは思えないが、雑魚は雑魚なりに連中も必死だ。万が一の事態となる可能性も否定できない――
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