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あの日私の様子に驚いて結菜は、駆け寄ってきた。
結菜は、最後に会った時より少しふっくらしていて健康的に見えた。
心配そうな瞳に、心底私を案じているようだった。
「ちょ、ちょっと具合が悪くて… こんな場所で久しぶりだね」
何とかその場を取り繕うように言うと、さらに結菜はこう言った。
「大丈夫? タクシー呼んだ方が…」
「大丈夫、大丈夫。心配かけてごめん。電車で帰れるから平気だよ」
「…そう?」
「また連絡するね」
結菜は、まだ何か言いたそうだったけど私はそれを振り切るように離れた。
その時佐倉先輩がなぜ結菜と一緒だったのかはわからない。
私と結菜が話していたことは、聞こえていたんだろう。
だからこその質問なのか私は正直に話すことにした。
「連絡してないです。結菜が会社を辞めてから連絡は、取りあってなかったですし…」
「え、そうなの? うーん…」
「あの…どうして先輩が結菜と私のことを気にするんですか?」
「可愛い後輩だからぁ♡」
茶目っ気たっぷりにテヘペロする先輩。
「もう! からかうの、やめて下さい。先輩と結菜は、…っ」
次の瞬間…私の唇を塞ぐみたいに人差し指が置かれる。
「気になる? 俺らの関係」
なってませんと言いたいけど言えない。そして唇から指は離れない。
唇の形を確かめるように撫でながらふっと笑って先輩が言う。
「従兄妹だよ。血の繋がりはないけど」
「従兄妹!?」
「つってもなったのは、わりと最近かなー」
「え…」
「俺には、仕事人間の叔母がいてこのままずっと独身を貫くのかと思っていたら、
急に結婚するって言ってさー。その相手が桜井の親父さん」
「そういえば結菜は、お母さんを早くに亡くしたって聞いたような…」
「世間は、狭いよな」
血が繋がってないっていうのは、そういう…なんかいろいろ納得した。
「それでさ、里香ちゃん」
だから名前で呼ぶのはやめろと何度言わす…えーい。この際、無視だ。
「なんですか」
「俺にライン教えて?」
「は?」
「桜井に頼まれたんだよ。俺に聞いてくれって…」
「ど、どうしてですか…?」
「里香ちゃんに会いたいんだってさ」
「私に!?」
なんで今になって…?
今まで一度も何の連絡もなかったのに…。
「…よく聞いてあげてよ。俺も後輩は、仲良しがいい。もちろん武史も…ね」
「先輩?」
意味ありげな事を言われ、どういうことか聞いても先輩は微笑むだけ。
その後私達は仕事に戻ったけど先輩の指が触れた唇が妙に熱いのと…。
どうにも仕事に集中しきれず、ご飯を食べたら、
早々に切り上げて帰ることにした。
帰りの電車でスマホを見ると早速ラインが来ていた。
女子みたいな文章とスタンプは、佐倉先輩で…それはいいとして。
その下に結菜から会いたいと短い文が続いていた。
会いたいのは、わかったけどその後の文に。
謝りたいことがあると書いてあった。
謝るって何を…?
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