恋煩い

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結菜に連絡を取り、私達は会うことになった。 (ちょうど悟くんもバイトで会えない日みたいだったし…) 私達は、表参道のレストランで落ち合い、店内に客は私達しかいなかった。 「忙しいのに時間作ってもらってごめんね…。 今日は、会ってくれてありがとう」 デザートを食べ終えて結菜が口にしたのは、それ。 私はいいよ、いいよと笑う。 「急に会社辞めて驚いたでしょ? 相談したかったけど…」 「何かあったの?」 俯く結菜に私は、その先を促す。 空のデザートの器には泣きそうな顔が映った。 「わたし…。会社辞める少し前からうつ病になっていたの」 「え? そうだったの!?」 そんなこと初めて聞いた。 「それらしい症状もなかったから自分でも気づけなくて…」 「原因は、仕事? 結菜の課も忙しかったよね」 「…ううん。当時わたしには彼氏がいたの。大学からつきあってた彼」 「武史、の前ってこと?」 私がその名前を出すと結菜の肩がぴくりと揺れた。 「うん。わたしは新卒で内定決まって働きだしたけど彼氏はそうじゃなくて、 プライドの高い人で、就活がうまくいかないストレスから暴力を受けるようになって…」 「なんで話してくれなかったの? うちに逃げてくればよかったじゃない」 「…。でもそしたら赤城さんに迷惑かけちゃうと思ったから、言えなかった…」 「…結菜…」 そうか。私も結菜と同じ立場だったら言えない、か。 「仕事に忙殺されながら、帰宅したら彼からの暴力にどんどん心が削られていって…そんなある日彼に殴られているのを、…武史くんに見られてしまったの」 「そんな人が見る場所で殴られたり、蹴られたりしてたの?」 「もう最後の方は、見境なくなってきて…わたしがいきいき楽しそうに仕事するのが妬ましかったって。逃げたかったけど逃げるのも怖くて、次第に一人でいるのも怖くなっていって…心配して気にかけてくれる武史くんを好きになって…依存していった」 「………」 心境的には藁にもすがりつきたい思いだったよね…。 「武史くんは、わたしが精神的に重かったと思う。だけど一度もわたしを突き放さなかった。なるべくわたしを一人にしないようしてくれてたのに…なのに、わたし…」 「結菜…?」 「武史くんは、女性好きで何人も他にいるって話したよね?」 「う、うん…。あれは、結菜が教えてくれたよね」 「あれ、本当は違ったの」 「えっ!?」 それってどういう…。 「武史くんは、遊ぶためにいろんな女の子のところへ行ってたんじゃなくて、 わたしを一人にしないよう、一人ずつお願いしに行ってくれてたんだって…」 「そうだったの!?」 「わたし、それを最近になって聞いて知ったの。…佐倉先輩から」 「なんで佐倉先輩!?」 「赤城さんと別れてお酒の席で愚痴ってたって。武史くん」 後輩は、仲良しがいいってそういう意味だったの。 「わたし、何も知らなくて武史くんのことも…結局一人だけを愛して、大切にしてくれる人なんていないんだって…」 「……」 「その頃のわたしは、自己肯定感が下がっていたから、どんどん悪い方へ考えて、ますます病気を悪化させて退職することになったの…」 「大変だったのね…。病気は、もう治ったの?」 涙を滲ませて結菜がこくりと頷く。 「完治した。謝りたかったのは、…あの後で赤城さんと武史くんが別れたって聞いてわたしが間違ったことを言ったからじゃないかって…ごめんなさい」 「謝りたいことってそのことだったの? 結菜のせいじゃないよ」 「でも武史くんは、赤城さんと結婚考えていたと思うから」 「結菜には、…そんな風に見えたんだね」 「庇うわけじゃないけど武史くん、女好きみたいに振舞うことはあったけど…本当は違うよ。弱ってる私を慰めるふりしてセックスへ持ち込むことなんて、いくらでもできたのにわたしには指一本触れなかったもの」 「……」 それは、そこまで武史が悪い奴じゃなかったってだけっていうか。 アイツだって人の子だもの。そこまで腐ってないはずで…。 結菜は、自分のせいで別れることになったって思っていたようだけど…。 本当のことを言ってくれていたって…きっと私達別れてた。 私は、武史を信じてあげられなかった。 もしかしたら好きだっていう大切な言葉もなぁなぁにして、 ちゃんと伝えていなかったかもしれない。 始まりだって言わなくてもわかるだろって雰囲気だった。 私達ちゃんと向き合ったことなんてあったかしら。 きっとなかったからあれで終わりだったのよ。 大切なら自分の思うこともちゃんと伝えなきゃいけなかったのに…。 大切にされてなかったのは私だけじゃない、私も彼を大切にしてなかった…。 「赤城さん?」 「ごめん。大丈夫。なんか反省してたの」 「反省?」 「ん…。それより結菜、今はどうしてるの?」 「ご縁があって結婚した。今は専業主婦させてもらってる」 「やだ。そうなのー。幸せ?」 「うん」 輝くばかりの笑顔に私は安堵する。 「良かったね。今度結婚のお祝いさせてよ」 「えーいいよー。赤城さんは、どうなの? 彼氏いるんでしょ」 「…うーん。いるにはいるけど」 私の言い方に結菜が不思議そうな顔をする。 「年下なんだ。彼が」 「いくつ?」 「二十歳」 「わぉ。これまた若いね」 「うん。だから…私でいいのかなって…」 弱気になった私に結菜が返す。 「えー。なんで?」 「私達の歳になるとさ。結婚を意識しだすじゃない? このままでいいのかなって…」 5年後、悟くんが結婚を意識する25歳頃に私は30歳。 でも年上の男性が相手だったら女として高値で売れるのは今だ。 「若さ」それだけは、努力でどうしようもない。 私は過去お見合いをしたことがあるのだった。
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