恋煩い

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新卒で入社して半年が経った頃、田舎の母から見合い話がきた。 農家の嫁不足は、深刻と聞く。 上京した娘にまで連絡が来るほどなのかと蓋を開けてみれば相手は、 同世代ではなく私より10歳も上のまさかのバツイチ。 正直気は進まなかったけど母の顔を立てるつもりで会うだけ会った。 会って尚更無理だわ…となったのでお断りしたら両親から激怒された。 しまいには勘当だと言われ、戻ってきたけど後悔はなかった。 1年後私がお断りした相手は、再婚後。 すぐ二人目の奥さんにも逃げられたと聞いた。 そうなるだろうと思っていた。 だって妻を大切にするという考えはない人だったし。 まだ友達と思っていた武史との関係が変わったのは、その直後だった。 好きになって、交際が始まって…。 武史とはいつか結婚できたらいいなとは思ってた。 ちゃんとそんな関係を築けていると思っていた。 けどどれだけ一緒にいても結婚後の生活は、ぴんと来なかったな。 いつもふらっと私の部屋にやって来て。 私が作ったご飯を当たり前のように食べて。 お風呂やベッドも我が物顔で好き勝手使って…。 …悟くんは…。 「里佳ちゃん」 考え事をしていた私に話しかけてきたのは、佐倉先輩。 最近よく会うようになったな。 「何階?」 「え?」 「エレベーター乗らないの?」 「の、乗ります。すみません。3階です」 そうだ。私、経理部に書類提出に行くところだった。 「考え事?」 「ちょっとボーッとしてました…」 「この暑さだしねー。ちょっと待ってて」 「先輩!?」 先輩は、何か思いついたようにさーっと走ってく。 その手には、ペットボトルを2本持ってニコニコやってくる。 「はい。これ、うまいよ。最近の俺のお気に入りなの」 「あ、ありがとうございます」 渡されたのは、この夏限定で発売になったシトラスティー。 さっぱりしておいしくて私もよくコンビニで買う。 「私、これ好きなんです。嬉しいです」 「………」 「先輩?」 あれ? なんか…怒らせた? 「だから… ダメだって」 「!」 不意に先輩に腕を引かれたかと思うと。 先輩は私の口元を自分の手で覆った。 え?え? なになに?  呆れまじりの深いため息の後。 低い、色気のある声が耳元で囁いた。 「俺、結構わかりやすいはずなんだけど…里佳ちゃんって鈍いね」 「?」 「気のない男に、あんな顔しちゃダメだよ」 そういうと私の口元を覆っている自分の手に唇を押し当てる。 まるで私に、キスするかのように…。 その顔は、真剣そのものでいつもの茶化した態度とは違う。 もしかして先輩は、わたしのことを…。 そこまで思いかけて先輩が私の心を読んだように。 うんと優しい声で告げた。 「俺、里佳ちゃんが好きだよ」
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