恋煩い

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「え、車…?」 マンションのエントランスまで下りてくると、 車に背を預けて待っている悟くんの姿があった。 普段の悟くんの服装は、オーバーサイズのストリート系。 私は、おしゃれに無頓着というか清潔感があれば…ってタイプ。 特に気にもしてなかったのに細身のパンツにカーディガンを羽織った彼は…。 何だかいつもより男の色気があって今更ながらドキドキしてしまう。 「あのさ、里佳」 あの雨やどりの帰り道。 「忙しいのが落ち着いたらどこか旅行しない?」 「え?」 お付き合いが始まってデートらしいデートをろくにしてこなかった私達。 だいたい会うのは私の部屋で、言わずもがなそうなるのは、私のせいだ。 「旅行って…私と悟くんで?」 「うん。嫌かな? 家でまったりしていたい?」 「ううん。行きたい。交替で夏期休暇取れるから行こうよ」 「よっしゃー!」 ガッツポーズをして喜ぶ悟くんに私も笑ってしまう。 「そんじゃ俺、今度旅行雑誌持ってくるから一緒にどこ行くか決めような」 「うん」 そうして決まった今回の旅行。 楽しみすぎて小学生のように前夜眠れなかった私…。 悟くん、こんなにがっちりしてたっけ…。 「あ、里佳。おはよう」 「お… おはよう…」 「ん、どうしたの。寝不足?」 「いやその、…笑わない?」 「え? なんで?」 「楽しみすぎて眠れなかったの…」 「待って。無理! 朝からそんな可愛いこと言わないで…」 「そんなつもりは… 」 照れ隠しなのか額にそっと落とされた口づけに言葉が紡げなくなる。 「乗って。出発するよ」 運転席に乗り込む彼に続いて私も助手席に乗り込む。 「ね、ねぇ悟くん。車の運転できるの?」 「ん? 全然乗ってなかったけど、最近またよく乗るようになったんだ」 「そ、そうなんだ」 「ちゃんと安全運転で行くから。安心してよ」 「う、うん」 私がとぎまぎしてしまうのは、運転の心配じゃなくて。 いつもより素敵に見えているってことだよ…? 悟くんの運転する横顔は、かっこよくて。 首から鎖骨へのラインに私はずっとドキドキしっぱなしになるのだった。
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