恋煩い

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次の日の朝、俺は落ち込んで背を丸めていた。 初めて長く二人きりでいられて浮かれ、ヤリ過ぎたらしい。 ベッドから起き上がれないでいる里佳に声をかける。 「ごめん。里佳、大丈夫?」 「ん…大丈夫」 そのかすれた声さえ色っぽく感じてしまい、 俺は内心自分で自分を叱咤する。 言い訳がましいけど昨日は、里佳も悪いだろ。 ずっと会ってなくて、触れあってもいなかったのに…。 ちょっと目を離した隙に裸にバスローブとか、興奮しないわけがない。 (そんで無自覚だから怖いよ) 幸い少し経てば、里佳も歩けるぐらいにはなり、 俺たちは、ホテルのバイキングで朝食を食べた後、 里佳に負担のない場所を選んで回ることにした。 今回の旅行の金は、俺が全て出している。 都度里佳が私も出すのに!と言ってきたけど俺が出したいのといって引かなかった。 それくらいはしたいと思ってたんだ。 里佳を独占するのに、里佳に出してもらうのは嫌だった。 予約したホテルもちょっと奮発したから、「こんな素敵なところなの?」って 里佳は始終驚いてたけど、このために多少無理してでも設営のバイトをした。 それに里佳に渡したいものもあったし。 その渡すタイミングが今なのかはわからないけど、 自分の気持ちは、伝えておく必要がある。 そうしないといつか里佳は、俺の前からいなくなりそうで…。 俺のその不安は、当たらずといえども遠からずだったんだ。 「あ、花火だよ。見て、悟くん」 「ホントだ。ここ穴場スポットだね」 「うん。すごくきれい…」 二日目は、帰りに温泉街へきていて浴衣姿の里佳が呟く。 髪を上げたうなじが艶めかしい。 俺だけしか知らないんだな…。 誰にも見せたくないなーと思ったら俺は里佳を抱き寄せていて…。 「浴衣姿が可愛くてヤバいんだけど…」 そう囁くと里佳は、耳まで真っ赤にしていて。 「花火見ないの?」 「うーん。見たいけど正直花火どころじゃないねー」 俺の目は完全に泳いでいる。 昨日散々やって里佳に負担かけてるから我慢だ。 そう思うのに里佳は、小さく俺の浴衣の袖を引いて聞く。 「なに考えてるの?」 「…里佳のことだよ」 あー、お願い。もう煽らないで。 俺、自分の気持ちが止められないから。 それを口にできず、本能的に里佳の唇を貪ってしまう。 「…ん、待って。外から見えちゃう」 俺達がいるのは、温泉街の宿の客室。 その窓から花火を見ていた。 「俺で見えないよ」 そう言って覆い被さり、俺はまた里佳に口づける。 優しくしたいと思うのにほしい気持ちに抗えない。 「ああっ!やぁっ、…あ、…はぁ…んっ」 里佳のナカで繋がってしまうと甘い声がこぼれ出した。 ぞくぞくと駆け抜ける快感。 悦楽にとけた瞳に俺が映っている。 本人に自覚はないけど里佳は、美人だ。 彼氏の欲目を抜きにしても目を引く容姿だと思う。 だからあの日、痴漢されてるのにも気づけたんだ。 里佳のことは、顔だけ知っていた。 たまに電車で一緒になるから、今日はすげー疲れてるなとか。 今日は顔色いいなとか、会えば見るようになってた。 恋心の自覚がなかったから、懐いてすり寄って…。 今はこうして離したくない。 「ずっと、こうしてたいな…」 思わず零れた言葉を拾って。 「私も… ッ…あっ、あ…んっ、んっ、‥‥ぁっ」 里佳が返してくれる。 それに怒張して俺はさらに里佳の感じるところへ腰を動かした。 「ああっ、あ、…、も…」 「…イク、…?」 甘く締め付けてくる刺激に一層激しく動き、 あまりの激しさにぐったりした里佳にキスを落とす。 「大丈夫…?」 「ちょっと喉、渇いた…」 「あんなに感じてたしね」 「もうッ…  誰のせいだと」 「ごめんごめん。はい」 ペットボトルの水を渡しながら、俺はもう片方の手を取る。 「?」 「良かった。サイズあってた!」 「え? なになに? 指輪?」 「そう。俺、超バイト頑張ったの」 そして意味ありげに薬指にはめてあげる。 今の俺のバイト代で買えるものになったけど、 シンプルなダイヤのついたプラチナの指輪だ。 「わぁ、ぴったり。嬉しいけどプレゼント? でも私の誕生日でもないし…」 そこで俺は改めて正座して向き直す。 里佳も空気を読んでくれたのか居住まいを正してくれる。 「赤城里佳さん、俺とずっと一緒にいて下さい」 「…え?」 里佳は、言葉の意味もわからず俺を見てる。 「俺さ、里佳とずっと一緒にいたいんだよ…。将来のことも考えてた」 「え!?」 「けど俺、学生だから今の俺が言うのは無責任だし何も言えなかった」 「……」 「何も言わなくてもわかってくれるって甘えがきっとあったと思う。 それじゃダメなんだって気づいたんだ…」 「悟くん…」 里佳は、声を震わせる。 「ごめん。待たせてしまうけどもう少しだけ里佳の時間をもらっていい?」 「私の時間…?」 「俺が大学を卒業したら改めて、ちゃんとプロポーズするから…だからそばにいて」 抱きよせながら言うと、里佳は泣いていて、いいの?と聞いてきた。 「私、今よりももっとおばさんになっちゃうよ? それでも好きでいてくれる?」 「当たり前じゃん。俺だって歳はとるしさ。ちゃんと言わないとって…思ってたんだよ」 泣いてしまった里佳の背中を撫でながら俺は言う。 そして俺が感じていたようにやはり里佳は、いつか俺からいなくなることも考えていた。 里佳の年齢的に将来のことを考えるのはごく普通のことだけど、学生の俺には言えなかったと。 同世代の男でも重いという奴はいる中で話すのが怖かったのだと。 「バカだな…。重いなんて言わない。むしろ嬉しいよ」 「ホント?」 「だって里佳だって俺とずっと一緒にいたいって思ってくれてるんだろ? それって幸せじゃん」 「…うん…うん…」 二人の旅行は、ずっと一緒にいようと約束し合って帰路についた。 これからも二人で幸せになっていこう。 そのためにも俺は、頑張るよ。 いつか君の、旦那さんになるために。 俺はそう誓うのだった。                               完
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