恋煩い

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もちろん料理上手な萌の弁当が食べられないのは、残念だが。 悟のフキゲンの理由は、別にあった。 キャンパスを出て悟は、恋人の部屋へ向かう。 里佳の定時は、17時半。 それでも定時に終われたことなどない。 たいてい帰宅すれば早くても20時を過ぎている。 帰宅する時間を見計らって行くようにするけど、 最近は、特に忙しいらしい。 仕事のデキる同期が入院して、急遽臨時で、 派遣社員が入ったって言っていたけどその後のことは聞いてない。 途中たっぷり寄り道は、したし。 時間をつぶしてきたのに里佳のマンションには、 あっという間に着いてしまった。 一階のエントランスをくぐると何やら騒がしい。 管理人と大家らしき年配女性が話しているのを素通りできず、 兄直伝のフェミニストを発揮し、にこにこ一応聞いてみる。 「何かあったんですか?」 「ええ、ちょっと下着泥棒が…」 「あら? あなた…」 恋人つっても怪しまれそうだな。 「そう、弟さんなの。仲がいいのねぇ」 「姉がお世話になります」 ここは、弟で切り抜けるのが得策だ。 「弟さんが近くにいらしたら安心よねぇ」 「ははは…」 萌ちゃんの時も同じこと言われたな。 里佳の部屋の鍵は、渡されている。 遅くなると待たせるから入っておいてと。 やはりまだ帰っていない…。 散らかった部屋の様子から忙しいのがよくわかる。 もう何度だって入ってるのに、 玄関を開けると萌ちゃんの部屋もそうだけど、 女の人特有の香りがする。 金曜の夜は、いつも抱き合って眠る。 今夜も難しそうだ。 社会人の彼女にかまってほしいと、 子供みたいに駄々を捏ねたりはしない。 そんな負担になるようなことはしないけど、――― 好きなのは俺だけじゃない、よな?  そのくらいは、思う。 「…早く会いてぇなぁ…」 呟いた声は、静寂さに飲まれて消えていった。
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