恋煩い

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女性は、四捨五入し、30になる歳に入ると、 このまま独身で会社員をしていていいのだろうかと、 将来のことを思い悩んだり、考えたりすることは、 どうしても、いいやダントツに増える。 幸いにして独り暮らしで、両親からの結婚の圧力もまだないけど、 会社の同期や、学生時代の友人から結婚や妊娠、 出産報告などを受けると、相手がいることだから焦っても仕方ないと わかっていても、それでも何とも落ち着かない気持ちにはなる。 女性なら誰しもが一度くらいは感じるのではないだろうか。 一人だけ取り残されるような、焦燥感を―――。 かといって結婚観も今は、様々で結婚さえすれば、 無条件に幸せと思うほど頭も沸いてないし、お花畑ではない。 つきあってる相手もいるにはいる。 いるけど… 悟くんは、二十歳だ。 同じ歳頃もしくは年上なら、そろそろ結婚の話も出せるけど、 二十歳の遊びたい盛りの男の子に出せる話じゃない。 だからモヤモヤしたりすることがあっても、 悟くんには、とても言えない…。 それに… この恋が秋まで続くかもわからないのにと、 どこかで弱気になってる自分もいる。 そんな物思いに囚われるようになったのは、どうしたわけか、 即戦力にしては経験も浅い20歳の派遣女性が入ってきたからだろう。 同じ20歳でも同性なだけ、痛いくらいに思い知らされる。 やっぱり5歳の差って大きいなぁって…。 高卒か短大卒なのか知らないけどまだ学生気分が抜けないのか、 この忙しいのに職務態度は、少々なっておらず…。 社会人としてのマナーや一般常識はやや欠けている。 そのくせ可愛くて甘い声質のせいか、役員から部長から営業まで、 鼻の下を伸ばしまくって情けないったらない。 ちゃんと仕事してくれれば文句はないけど。 この新人ちゃんは、ミスもすれば即戦力どころか、 ミスのフォローにこちらの時間を取ってしまうような子だった。 「赤城さん、ちょっといい?」 「あ、はい」 私を呼んだのは、同期の藤木くん。 配属は、経理課だけどたまにみんなで飲んだりすると話す仲だ。 「これ出したのって、派遣の桃澤さん?」 「先週の出張経費ならそうだと思う」 「一部間違ってるから直してくれる?」 「間違ってた? ごめん! チェックするから見せてって言ったのに…」 なんで勝手に出すかなぁと呟くと藤木くんが続ける。 「赤城さんが謝ることないでしょ。直接本人に言えばいいけど今、専務とお喋りしてるからさ」 「また? もう、すぐああやってサボるんだから」 「あの子、別の課にも配属になった事あるけど、どこでもああみたいだね」 「え… ホントなの」 「うん」 そうだったんだと落胆するわたしに藤木くんはさらに言う。 「あ、そう言えばさ。聞いた?」 「何を?」 「掲示板の辞令、見てないの? 武史、異動で戻ってくるね」 え? 「福岡にいたんじゃなかったっけ?」 「うん。だから呼び戻されたみたいだよ、こっちに」 「そうなんだ…」 「じゃ桃澤さんに書類渡しておいてくれる?」 「わかった…」 藤木くんは、私に書類を渡して伝言をポストイットに書いて、 桃澤さんの机にポンと置いておいた。 勿論本人が来たら直接言うけど絶賛専務とお喋りタイムのようだし。 間違った書類より、武史が戻ってくることに私は動揺していた。 武史。 桐山武史は、営業配属になった同期で。 私の元カレなのだった…。
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