恋煩い

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浅草に着くと雨が降っていた。 待ち合わせの相手はまだ来ていない。 観光客で多いこの場所も平日の夕方は静かだ。 「あら、悟ちゃん?」 スマホを見ていると着物の年配女性が俺に話しかけてきた。 「まあ。すっかり大きくなって…」 「お久しぶりです。ご無沙汰してます」 その人は、伯母が経営する旅館の仲居の一人。 小さい頃は、ちょくちょく来ていて俺一家は顔なじみ。 俺にとっては数いる仲居さんの一人。 確か佐伯さん、だったか。 俺は、名前もうろ覚えなのにこの人よくわかったな。 (そんなに変わってないのか…。俺が…) 「また強い雨が降りそうね。誰かと待ち合わせ?」 「あぁ、姉です」 「萌ちゃんと? 仲よしねぇ」 …もう一人よりは。 仲居さんは、人の好い顔でニコニコしながら仲見世に消え、 そしてすぐ萌ちゃんがやってきた。 胸に大きな荷物を抱えて。 「………なにそれ」 会うなり低い声になる俺。 萌ちゃんは、不機嫌が滲んだ声に気づかない。 「これ? 今度の課題で使う道具」 「…どこで買ってきたの」 「かっぱ橋道具街だけど」 「そんなに買うなら俺を呼べばいいじゃん」 「見てるうちについ、いろいろほしくなって… でも重くないし」 「軽い重いじゃなくてさ。前、見えてる?」 ため息をつきながら取り上げるとやっと萌ちゃんの顔が見える。 「だ、大丈夫だよ。ここからそう遠くないし…」 「なに言ってんの。危ないだろ?」 「あ、ありがと…」 「……!」 あ、またやった…。それもナチュラルに…。 まあ相手は、萌ちゃんだからまだセーフか。 「悟くん?」 「…… あーごめん。萌ちゃん、俺口うるさかった、…よね」 「え?」 今じゃ追い抜いて頭一つできた身長差。 不思議そうな顔で姉は、俺を見上げる。 「心配して言ってくれただけでしょ。違うの?」 「……。そうなんだけど…」 皆が皆そう思ってくれるわけじゃなく…。 「実はさぁ…」 萌ちゃんちへ行く道すがら。 俺は、フェミニストを空回りさせ、失敗したことを話した。 「ふ~ん…。そんなことがあったの」 「なんか気に障ったみたいでさ。その人のこと自体は、どうでもいいけど…俺やっぱガキなんだなぁって」 「いろんな人がいるからね。気にしなくていいよ」 萌ちゃんは、笑ってそう言ってくれたけど…俺はなんだか引っかかって。 胸に刺さったトゲが抜けなくて、里佳にも会えなくなっていた。 今更だけどフェミストって聞こえはいいようで。 本当は、鬱陶しかったんじゃないのか…。 里佳は大人だから、優しいから何も言わないだけで。 俺の【子供】は、里佳をうんざりさせてないだろうか。 いろいろ考え出したらいつも食い気で元気満載の俺も不安になってきた。 里佳に自分の年齢のことを気にするなって言ってきたけど。 里佳以外の女の人には、ただのガキで。 男として見れないなんて普通にあることだ。 「やっぱ彼女にするなら年上より同世代だよなー」なんて、 解散後その場にいた友達は笑ってたけど。 他の女の人が俺をどう思おうとそれは気にならない。 里佳が俺を好きでいてくれたら、それでいい。 両親は、俺が小さい頃から忙しかったから。 家にはいつも兄貴か姉ちゃん達がいてくれて。 親の多忙ぶりを知れば、里佳が忙しくて会えないのを責めない程度には、 同世代の男より自分は大人だと思っていた。 萌ちゃんの部屋に着いたら、ラインがきた。 この間、フェミニストを空回りさせた時にそばにいた女の子だ。 その子の知り合いが失礼なことを言ってしまったと、 気にしなくていいのに責任を感じているらしい。 それをきっかけに時々ラインのやり取りをするようになってしまった。 一応人数会わせで参加させられた合コンで会ったから。 俺には彼女がいることは、事前に言ってるけど。 相手もそんなつもりはないというので、ラインだけしてる。 俺自身女の子のストライクゾーンは、広いけど。 なんつーか、どれだけ可愛くても友達にしか見れない子はいるんだよな。 ラインをくれる子もそういうタイプだった。 二人きりで会うことはなかったし。 俺は、里佳と会わない間にバイトで金を作りたかったから。 バイト三昧で全く意識する隙もなかったというのに…。 後にラインのやり取りをしたことで俺は、後悔するのだった。
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