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おやすみ、今日も「あいしてる」
「あいしている」という言葉が、おれにはいまいちしっくり来ない。そんな状況でいくら「あいしてる」と言ったってきみはきっと信じてくれないだろうから、おれは今日も、違う表現を考えるのだ。
『傍に居たい』
これはもちろん。大前提だ。離れるなんて有り得ない。
『触りたい』
うん。すごくすごく触りたい。あんまり触ると嫌がられるだろうけど、機嫌が良い時はちょっとくらい許してくれるかもな。
『キスしたい』
そりゃそうだ。出来るのなら何度でも。
『セックスしたい』
うん。したくない訳ないに決まってる。きみと出来るならどっちでも良いけど、正直おれは挿れる側がいい。
おれの下でおれにすがり付いて、めちゃくちゃになるきみを見たい。これも、叶うのなら何度でも。
おれは何時なんどきでもきみに触れたいし触れられたいと思っているから、それが出来る最上の方法がセックスなんだろうか。だからシたいって思うのかな。それともまた、別の欲求なんだろうか。どちらにせよ綺麗な感情じゃないことは自分でも解ってる。触れて触れられて、溶け合ってひとつになりたい。本当にはひとつになれなくても、その幻想を何度だって味わいたい。
まぁおれはきみを見ていたいから、本当にひとつになっちゃったら困るんだけど。
『泣き顔を見たい』
まぁ、見たい。どんな表情も仕草も見逃したくない。だけど悲しくて泣かせるのはやだなぁ。きみにとって辛いものは全部、おれが食べちゃいたい。そんで、泣く以外の顔も全部全部見ていたいな。…おれのためだけに、その表情筋を使ってくれないかなぁ。なんて、いつも考えては自嘲する。解ってるよ。そんなこと、傲慢にも程があるよなぁ。
『笑顔を見たい』
そうだよ。でもおれは傲慢だから、他の奴には見せないで。
『おれだけを見ていて欲しい』
叶うなら。いや、叶わなくとも。願望だけを正直に吐露していいのなら、こんな事言わずもがなだ。その透き通った瞳にはきっと色んなモノが通り過ぎていくけれど、その真ん中にはいつもおれが、おれだけが陣取っていたい。おれにとってもそうであるように、きみにとってもおれがきみの世界の中心になりたい。…そうなれたら、おれはどれだけ幸せだろうか。
『あいしてる』
…やっぱり、しっくり来ない。今まで綴ったこの感情がたった五文字で果たして表現出来ているのかいないのか、良く分かんないや。『あいしてない』訳じゃあないと思うんだけど、おれがきみに抱いてる感情にはもっとこう、色んなモノが混ざってるんだ。
『幸せでいて欲しい』
もちろんだ。そうじゃなきゃ何もかも意味が無い。きみが幸せじゃない世界なんて、何の意味も持たない。そんな世界ならば、おれが滅ぼしてしまったっていい。
『出来れば、その隣に』
やっぱり、傍に居たい。
いつまで?いつまででも。きみがおれと居たいと思ってくれたなら、それが叶うんだ。そう願ってくれるために、おれには何が出来るだろう。きみに求められるために、何もないおれには何が出来るのかな。
嗚呼、足りない。足りないなぁ。
どれだけ時間をかけていくら考えても、やっぱりいつも同じところに辿り着く。
「あいしている」という言葉がやっぱりしっくり来ないから、おれは今日も考える。赦される限り名前を呼んで、拒まれない範囲できみに触れる。手を繋ぐ。頭を撫でる。言葉を拾う。真っ直ぐなその視線をこの目に閉じ込める。
瞬間を永遠にして、この狭い心に大事にしまう。いっぱいになったらどうなるのか、まだおれにも分からない。
だからそうなる前に、何とかして少しずつきみに伝えていかなければと思うんだ。
どうやって伝えよう。どんな言葉が、行動が正解だろう。世間的な正解なんて知らない。これはおれときみだけの問題だから。…いや、おれが勝手に問題にしているだけなんだけどね。
幸せでいて欲しい。だけどおれも、ごめんね。幸せになりたい。
きみの幸せの為ならなんだってしたいと思うけれど出来ればおれが、きみのその幸せの中に少しでも存在していたいと。そう、願ってしまうんだ。
あ、そうか。
「あいしている」がしっくり来ないのは、「あいしていない」からなのかも知れないな。
おれの幸せのために、きみには幸せでいて欲しいから。
おれの心の安寧のために、きみには笑っていて欲しいから。
きみのためじゃない。全てはおれの願望のため。
だからこれは「愛」じゃない。
きっとこれは、ただの欲望。
「…あいしてる」
言葉に出しても、やっぱりしっくり来ないんだ。そうして今日もおれは、この醜い欲望ときみの笑顔を抱き締めて眠る。
おれの安眠のために、きみも安らかに温かい布団で眠れていることを願って。
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